大河原克行のエンプラ徒然

Windows 8の戦略を理解するための3つのポイント

大河原克行

2012-11-19 08:00


Surface発表会ではバルマーCEOが直々にプレゼン(出典:Microsoft)
Surface発表会ではバルマーCEOが直々にプレゼン(出典:Microsoft)

 Windows 8の発売から約3週間を経過した。

 日本マイクロソフトが、11月12日に報道関係者を対象に開催した「コンシューマー製品メディアディ」では、米マイクロソフトのインターナショナルプレジデントであるジャン フィリップ・クルトワ氏が、Windows 8発売後のグローバルでの成果について説明。

 Windows 8発売からの3日間で、400万本以上のアップグード販売が見られたことや、東京・秋葉原には発売前日に1万人以上のユーザーが訪れたことなどを紹介した。

 また、主な小売店店頭でデモが行われていること、Windows Ambassadorと呼ばれる学生たちがWindows 8のキャンパスツアーを実施し、150万人の学生向けに活動していることを示しながら、「大きな需要が反映されている、強いスタートを切ることができた」と、発売後の成果に自信をみせた。

 また、日本マイクロソフトの樋口泰行社長も「まだすべての製品が出揃ってはいないが」と前置きしながら、「日本では世界のなかでも多い13社から250機種以上のWindows 8搭載マシンが発売され、それだけでも日本における初期の盛り上がりを感じる。なかには品薄になっているものもある。発売前日夜には、6000個のWindows 8の紙袋、8000部の号外が早くなくなり、秋葉原全体では1万人以上が駆け付けたのではないか。ニコニコ動画では23万人が視聴し、15万のコメントを寄せた。そのうち91.2%がポジティブなコメントとなっている。これは大変ありがたいこと」と、異口同音に出足の好調ぶりを協調した。さらに「店頭では1万9000人の店員に対するトレーニングが完了した。11月末までに166店舗で852回の店頭イベントを行う。これから機種がさらに揃うことから、より大きな期待感がある」とする。

 この会見での説明を聞いて、マイクロソフト側には3つのポイントがあると感じた。

 ひとつは「対Apple」「対Android」という、対抗する2つの「A」に対してWindows 8の優位性が「オン」と「オフ」の両方に対応できることを訴求していく姿勢を強調した点だ。

ジャン フィリップ・クルトワ氏
ジャン フィリップ・クルトワ氏

 クルトワ氏は「最初にWindows 8のデモストレーションを行ったのは2011年5月。その時に語ったのは、Windowsの再創造である」と前置きし、「Windows 8の登場によって、ユーザーはタブレットの利便性かPCの生産性かのどちらかを選ぶ必要はなくなった。複数の異なるデバイスを購入することはなく、仕事も楽しさもひとつのデバイスで実現できる」と語り、そこにこそWindowsの再創造の意味があることを示す。

 また、「世界130カ国で様々な形のデバイスを購入できる。エンドポイントが幅広く、ローエンドからオールインワン、タブレット、デスクトップ、クラウドに対応したものなど、利用者のニーズによって幅広い選択肢がある」とし、エコシステムならではの広がりも強調する。

 樋口社長も「オンもオフも、マウスもキーボードもタッチも、アプリケーション資産もすべてひとつで済む。競合他社のものはどれかを選ばなくてはならない。そこにWindows 8のバリューがある」とする。

 Windows 8の発売と前後して競合陣営が積極的な新製品を投入してみせただけに、それを強く意識した発言であることも感じられる内容だった。

 二つめは、Windows 7からの移行を重要な施策と位置づけている点だ。

 クルトア氏は、珍しくWindows 8のスペックにも言及しながら「Windows 7搭載PCをWindows 8にアップグレードしただけで、バッテリ駆動時間を13%も改善でき、ブートタイムは36%改善し、メモリ使用量は22%削減できる。また、Windows 7ロゴを取得した何百万ものアプリケーションやデバイスは、そのままWindows 8でも利用できる。発売前に190カ国において、12億4000万時間のテストを行ったソフトウェアは過去に例がない」と、Windows 7からの移行を重要な提案として展開する姿勢を示した。

 これは、その後に登壇した日本マイクロソフト執行役常務 コンシューマー&パートナーグループ担当の香山春明氏のコメントからも同様の姿勢が感じられた。

 香山氏は「年末商戦への取り組みにおいて、Windows 8、次期Officeの無償アップグレード、Xboxエンターテイメントの3つに注力する」としたが、そのなかで「Windows 7からのアップグレードを促進したい。Windows 8を搭載したデバイスだけを訴求するのではなく、OSそのものについてもセットで提案していく」と語り、Windows 7ユーザーのWindows 8へのアップクレードを重要な訴求ポイントとする姿勢を示した。

 さらに「Windows 7ユーザーには、Windows 8へのアップグレードの価値が十分にある。タッチパネルがないPCではWindows 8が使いにくいという声があるが、ノートPCのタッチパッドを利用したり、マイクロソフトが発売しているタッチマウスを利用すれば、既存のPCでもタッチパネルがないPCでも快適に利用できる」とする。

 すでにWindows 7搭載PCを購入したユーザーは、1200円でWindows 8にアップグレードできるキャンペーンを実施。3つの重点ポイントには含めていなかったが、実は年末商戦でアップグレードにかなりの力を割くのではないかという様子を感じることができた。

 そして、三つめが日本へのSurface投入だ。

 これまではSurfaceの国内発売を明確にしてこなかったが、今回の説明のなかでクルトワ氏は次のように語った。

 「Surfaceは、マイクロソフトにとっても、日本の市場にとっても、重要な製品である。いつとはいえないが、数週間前に来日したシノフスキーは、Surfaceは日本に来るといっていた。Surfaceのエクスペリエンスを日本のコンシューマーにも体験してほしい」

 だが、気になるのはクルトア氏の発言としてではなく、スティーブン・シノフスキー氏の発言を引用した格好で話していた点だ。

 周知のようにシノフスキー氏は、この会見の翌日に退社することを発表した。

 となると、この発言が現在でも生きているのかどうかは不確かだ。その点では、日本でのSurfaceの投入について、改めて米国本社の幹部に確認する必要がある。

 現時点でいえることは、Surfaceを扱う米本社の組織には日本市場をよく知る日本人が存在していないこと、Surfaceを日本で担当する組織が日本マイクロソフトのなかには今はまだないという事実があることだ。

 Surfaceを日本で本格的に展開するのか。それを判断するには、日本法人の組織体制がどうなるのかといった点に注目しておくことも必要だ。

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