三国大洋のスクラップブック

ビル・ゲイツは泣いて馬謖を斬ったのか

三国大洋 2012年11月15日 17時40分

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スティーブン・シノフスキーは1987年の入社、ビル・ゲイツのアシスタントも務めた
スティーブン・シノフスキーは1987年の入社、ビル・ゲイツのアシスタントも務めた

 前回に続いて、マイクロソフトでWindows責任者を務めていたスティーブ・シノフスキー退社の話を取り上げる。

 その後、さまざまな情報が公開され、整理するだけで精一杯というのが実状だが、そうしたなかで目に留まった事柄をいくつか紹介していく。

 まず、MGシーグラー(元TechCrunch)は、シノフスキー退社騒ぎをめぐって出てきた報道や解説に共通する点として、以下の5点を挙げている。私自身の印象ともほぼ一致しているので、これを先に記しておこう。

  1. シノフスキーは実際にはクビになった(あるいは退社を求められた)
  2. シノフスキーはスティーブ・バルマーCEOと衝突していた
  3. シノフスキーは他のマイクロソフト幹部と折り合いがよくなかった
  4. バルマーはマイクロソフトをもっと協力的な環境の会社にしたいと考えた
  5. Windows 8やSurfaceの売れ行きは、シノフスキーの退社と直接関係がない

 これにもう一つ付け加えるとすれば、やはりシノフスキーの退社と先月末のスコット・フォーストル(アップルのiOS責任者)の解任との類似性を指摘した声だ。なかには「ふたりが一緒に会社をはじめたら、すごいことになるだろう」という、冗談とも本気とも判然とせぬつぶやきさえあった。これをつぶやいたのは、以前「It Smelled Something Like Pizza」という記事を紹介したこともあるFarhad Manjooというコラムニストだ。

Farhad ManjooのTweet
Farhad ManjooのTweet

ビル・ゲイツ、泣いて馬謖を斬る?

 AllThingsDのカラ・スウィシャーは、今回の件について「『バルマーか、シノフスキーか』という二者択一の選択を迫られたビル・ゲイツが、結局バルマーの肩を持ったから……というのがシノフスキー退社の裏事情らしい」という話を書いている

 スウィシャーはマイクロソフト社内の複数の情報源から聞いた話として、協調性を欠き、上級幹部と角を突き合わせることも少なくなかったシノフスキーのやり方に、「バルマーが遅まきながら懸念を抱くようになった」と記している。

 この「遅まきながら」という部分に関しては具体的な時期についての言及はないが、メディアへの露出度が高かった複数の上級幹部が一斉に辞めていった2010年あたりの可能性が高そうだ。この年、マイクロソフトは前回も触れたレイ・オジー、Xbox事業成功の立役者とされるロビー・バックとJ・アラード、それにビジネス部門責任者を務めていたスティーブン・イーロップ(現在はノキアのCEO)らを相次いで失った(ただし、Bloombergではバルマーの懸念は「長年に渡ってあった」とされている)。特にXboxの二人がエンターテイメント部門で開発していた幻のタブレット「Microsoft Courier」は、シノフスキーにつぶされたとされている。

 これらの経営幹部とシノフスキーとの争いで、バルマーは結果的に一貫してシノフスキー支持にまわっていた。しかし、会社全体の利益よりも自身が率いるWindows部門の利害を優先するシノフスキーのやり方が心配になっていった。そして、そのことをゲイツに相談したところ、ゲイツもバルマーと同じ考えであることがわかった——と、このような感じのようだ。

 市場環境の変化、なかでもマイクロソフトに影響が大きいPCの相対的な地盤沈下、さらにはモバイルデバイス分野での出遅れなどを考えると、今は「もはや社内の派閥争いに明け暮れている余裕はない」が、同時に「シノフスキーの影響力をこれ以上大きくすると、会社全体がバラバラになってしまいかねない」という認識がバルマーやゲイツの頭にあったのかもしれない。

 以前、Xboxの話で書いたとおり、いわゆる「BYOD(Bring Your Own Device)」の流れ、そして「ポストPC」への流れのなかでマイクロソフトの制空権はどんどん狭まりつつある(参考記事:マイクロソフトとアップルの制空権争い)。実際、2012年度のボーナス査定ではシノフスキー自身がWindowsの売上低下(前年度比3%減)などの責任を問われ「満額受取」を逃している

 そんな状況からの巻き返しを図り、競合他社に対して攻勢に転じていくには、マイクロソフト全体の協力と連携が不可欠だ——少なくともコンシューマー分野では勢いもあり、今後大きな成長も見込めそうなXboxをレバレッジするかたちで、PCやモバイルデバイスとうまくつないで、全体を浮揚させるようなやり方をする必要がある。バルマーの視点からみれば、おそらくそういうことになるのだろう。

 そして、全社一丸となった協調態勢を築く上では、「なんでも自分のやり方を通さないと気が済まない」とされるシノフスキーが障害になる。この障害をなんとか取り除かないことには……となり、思いあまって経営の一線から退いているゲイツに相談したのではないか。そうであれば、バルマーとしてもかなり悩ましい状況だったろう。

 あるいは逆に、ミクロマネジメントで一切妥協せずにことを進めたがるシノフスキーにすべてを任せるという選択肢もある。COOに就けるなり次期CEO候補として遇するなどして、シノフスキーの好きにやらせれば、全社一丸というところだけはクリアできそうにも思える。しかし、この選択肢を選ぶとシノフスキーのことを快く思っていない他部門の人間、軍隊でいえば下士官クラスの現場を回す人間がごっそり辞めてしまい、大幅な戦力ダウンになりかねない……といったシナリオは比較的容易に想像がつくだろう。

 また、シノフスキーが実力を認められながらもWindows Phoneの開発まで権限を与えられなかったのは、「そんなことをすれば、イーロップ率いるノキアとの関係がどうなるかわからない」という懸念の表れだったのかもしれない。

 余談になるが、このスウィシャーの話が本当だとすれば、メンターのゲイツからはしごを外される形になったシノフスキーは、かなり不憫に思える。スコット・フォーストルと同じように後ろ盾を失ったにしても、フォーストルの場合はジョブズの死という不可抗力的な成り行きによるところがある。それに比べると、ピンピンしている師匠からダメ出しされたシノフスキーには、それだけに立つ瀬がない。そういった落胆(?)の感情も、長年籍をおいたマイクロソフトから身を引くという決断につながった可能性もある。

Window 8リリース前から進めていた退社の準備

 AllThingsDのスウィシャーや、マイクロソフト・ウォッチャーとして知られるメアリー・ジョー・フォリー(米ZDNetの「All About Microsoft」で著名)などは、今回の退社発表のタイミングについて次のように触れている。

 スウィシャーは、ここ数週間のあいだに「シノフスキーが退社するかも知れない」という噂をマイクロソフト内外の情報源から何度か耳にしていた、と前述の記事に記している。一方、フォリーの方は「Windows 8も無事出荷でき、また次期バージョンの開発サイクルにも入っていないこの段階で辞めるのは、それほど不自然なことではない」と述べている

 前述のバルマーとゲイツの判断がいつ頃なされたかは不明だが、シノフスキーのなかでは「Windows 8の開発と出荷でひと区切り」という気持ちが固まっていたのかも知れない。

「100億ドルの空席」をだれが埋めるのか

 Forbesのエリック・サビッツは「スティーブ・シノフスキー退社」の報道を受けて、翌11月13日の朝にはマイクロソフトの株価が一時4.3%も下落し、同社の時価総額は100億ドル以上も減少したと書いている

 3%を越える下げ幅は小さくないが、さまざまなメディアで「シノフスキーの抜けた穴は大きい」と書かれている割には、案外小さなものとも思える。それだけ株式市場の受け止め方は冷静ということだろうか。

 シノフスキーの退社によって、マイクロソフトには20年以上の勤続経験があり、しかもはっきりした実績をもつベテラン幹部がほとんどいなくなったという点は見逃がせない。だが、メディアが書きたがる存在感を持った人材がマイクロソフトのような大企業でどれだけ必要とされるのか、という点では疑問も残る。

 なお、今のところスティーブ・バルマーの後を継ぐことになりそうな次期CEO候補としては、次のような人々の名前が挙がっている。いずれも現職の上級幹部もしくは部門責任者で、良くも悪くも意外性はない。

  • サトゥヤ・ナデラ(サーバー&ツール)
  • キ・リュー(オンラインサービス)
  • カート・デルベネ(ビジネス)
  • ドン・マトリック(エンターテイメント&デバイス)
  • テリー・マイヤーソン(Windows Phone)
  • トニー・ベイツ(Skype)
  • ケビン・ターナー(COO)
  • クレイグ・マンディ(研究および戦略担当)

 以上は、メアリー・ジョー・フォリーの列挙している名前で、このほかに「誰がWindows部門の新しい責任者——プレジデントの肩書きを手にするかも注目の的」と記されている。

 一方、GigaOMでは次の各氏の名を挙げた

  • サトゥヤ・ナデラ(サーバー&ツール)
  • ケビン・ターナー(COO)
  • ジャン・フィリップ・クルトワ(マイクロソフト・インターナショナル)

 最後になるが、前回の話でも触れたCNETのジム・カーステッター(スコット・フォーストルとスティーブ・シノフスキーの類似性に着目したコラムを書いた論説委員)は、シノフスキー退任のニュースを踏まえて、「アップルとマイクロソフトでほぼ同時に(幹部の)『協調性』を優先する決断が下された」「だが、仲良しグループから凡庸なものしか生まれてこないリスクは常にある」「CEOは、部下のケツをひっぱたいてでも結果を出すというタイプと、協調性に富んだチームビルダーとのバランスをうまくとっていかないといけない」などと記している

03 シノフスキーとフォーストル

 一見「月並みな言い草」にも読めるが、案外「経営者の味わう妙味と苦渋」を同時に言い当てた洞察ではないだろうか。

(敬称略)

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