静岡県袋井市産で収穫された果物に対するしたトレーサビリティの共同実証実験が11月22日に始まった。果物のトレーサビリティと電子商取引(EC)を実現する共通基盤を構築し、11月に収穫された果物を生産地から東京、大阪、千葉と香港まで追跡し、関連情報を共有するというものだ。日本IBMや大和コンピューター、一般財団法人の流通システム開発センター、慶應義塾大学のSFC研究所、神奈川工科大学が参画している。
実証実験では、袋井市で収穫された果物の糖度、農場の放射線量を測定し、生産者、収穫地、収穫日、食べ頃、出荷数といった生産情報とともに生産者自身がFacebookページに登録する。消費者は、これらの情報をFacebookページで閲覧でき、FacebookにリンクされたECサイトから果物を購入できる。
収穫地から運ばれた果物は、出荷場で果物の個体識別子と梱包の個体識別子、物流業者の識別番号がECの発注番号と関連付けられてクラウドに保存される。出荷された果物は、流通経路での配送状況や温度情報が追跡できるようになる。
今回の共通基盤が実用化されれば、生産の効率化に加えて生産者の利益向上、消費者の安心安全に対する要求を満たすことができるようになるとメリットを強調。今後、自治体や農業生産者が簡単かつ気軽に利用できる仕組み作りを検討していく予定と説明している。
実証実験は「生産情報公開システム」と「EPCISトレーサビリティシステム」で構成される。生産情報公開システムは、果物にQRコード付きの電子タグを付けることで、トレーサビリティ情報を取得。加えて、消費者がQRコードをスマートフォンで読み取り、糖度や食べ頃、流通過程での温度情報、美味しい食べ方、農場の放射線量情報などを参照できる。
EPCISトレーサビリティシステムは、国際標準の識別番号体系(Electronic Product Code:EPC)でモノを個体識別し、その場所と状況を共通のフォーマットでクラウド上に保存して、さまざまなアプリケーションからデータを利活用できる(EPCISはElectronic Product Code Information Servicesの略称)。
今回のシステムは、ユーザーアプリケーションとクラウドの間にEPCISアダプタと呼ばれる仕組みを開発したこと、センサ情報とEPCシステムに導入したことという2つの特長があると説明する。
EPCを使ったシステムを実際に導入、運用するためには、例えば二重登録の防止、先入れ先出しのための入荷時期確認などの作り込みが必要となり、従来はアプリケーションごとに個別に開発していた。EPCアダプタはこうした作り込みを共通化する仕組みとなっている。
センサ情報の導入では、農場の安全性をECでアピールするために、温室内にガイガーカウンタを2台設置。温室は1棟が7m×24m程度あり、今回の出荷分では、そのうち2棟を使うため、無線のZigBee網を活用して、ガイガーカウンタで放射線量情報を農場内で収集し、携帯電話の回線で慶應SFC研究所のデータベースに蓄積。EPCISクラウドにも投入する。
センサ付きトレーサビリティの場合、従来はセンサとモノのデータをアプリケーション側でまとめてデータベースに投入するのが一般的。今回は、データ取得とデータ購読を独立させ、自在に設定する仕組みを使うことで、1つのセンサデータを複数のサービスに活用できるようになっている。1つの個体識別子にサービスが複数定義された場合にも、サービスをネット上から検索、登録できる。