情報テクノロジーの分野において「ビッグデータ」というキーワードがかなり浸透した。しかし、企業経営の現場では言葉だけが躍り、このキーワードに対する期待と疑念という両極端の反応が見られる。
本連載では、企業経営の観点から、ビッグデータの捉え方、ビッグデータの企業経営への生かし方について考察し、経営戦略上の核心に迫る。
ビッグデータ時代においては、自社のデータ資産を広くとらえ、それらの現在から将来にわたっての可能性を把握することが重要である。単なる情報システムの施策レベルではなく、自社の事業運営のレベルで、データ資産を効果的に利用する運営モデルを描き、実践するためである。
これらについては第1回、第2回の記事にて申し述べた通りだが、自社のデータ資産を効果的に活用するビッグデータ運営モデルとはどのように考えるべきか。本稿では、この点について議論する。
かつてはデータ容量やパフォーマンスの制約により、データの取得を必要な範囲にとどめ、蓄積されたデータが一定容量に達すると一部のデータを退避あるいは削除するといったことが、ごく当たり前のことのように行われてきた。しかし、これからはそうではない。自社の事業活動への関係性が認められ、現実的に取得が可能であるならば、多様なデータを大量に蓄積し続けていくことになる。
ただし、そのようなことがある日突然実現するわけではない。それが円滑に運営され、かつビジネス上の意義を有するためには、ビッグデータの利用や運営について、合理的で効率的なモデルをデザインし、自社の事業に組み入れなければならない。
データの利用、管理、運営は「ビッグデータ」という言葉が叫ばれる前から取り組まれてきたことではあるが、多くの場合、情報システム部門と一部の業務部門に閉じた取り組みとして扱われていた。しかし、これからは、自社のデータ資産を広くとらえ、企業経営全体の観点から自社の事業運営のレベルで考えなければならない。この点を念頭に置き、データの活用やデータの管理・運営にかかわるプロセスを思い描いていただきたい。
データの利用やデータの管理・運営に関わるプロセスについては「収集/分析/活用」「収集/分析/共有」「収集/分析/判断/活用」「収集/蓄積/分析/活用」などデータの種類や利用の目的などによって異なる整理となる。
ここでは「取得/収集」「分析/活用」「共有/提供」という3つで考えてみる。ここで「蓄積」を含んでいない点については異論があるかもしれない。ただし、事業運営のレベルで考えた場合、蓄積という工程は技術進歩に追従することで強化される傾向がある。企業経営上の工夫の余地が少ないこと、またこの議論において事業運営のレベルで考えることを頭の片隅に残すということを考え、あえてこのように整理している。
図1:ビッグデータ運営モデルの検討における3つのプロセス