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Google Trendsは投資戦略に使えるか

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2013-05-02 08:00

 以前、英米をはじめとする複数の中央銀行が、Google Trendsを景気予測に活用する研究を行っていることを紹介した。リーマンショックに象徴される経済のグローバル化とリアルタイム化に対応するために「起こったことではなく、起こりそうなこと」を予測する能力を高める必要性から始まったと言われている。今回は、そのGoogle Trendsを、より短期的とも言える投資戦略に活用できるかを実証した研究を紹介したい。

“Google Trends Strategy”の実力

 4月25日、Natureに“Quantifying Trading Behavior in Financial Markets”と題する記事が掲載された。この学術論文が検証したのは、Google Trendsを使うことで勝てる投資戦略を導き出すことができるかである。

 具体的には、98の経済に関連するキーワードを選び出し、それらのGoogle Trendsでの検索ボリュームを調査する。研究者たちはその分析結果によって売買判断を行う“Google Trends Strategy”によって運用のシミュレーションを実施した。

 シミュレーションの対象期間は2004年から2011年。1週間単位で98のキーワードに関する検索データを分析し、その翌週の投資戦略に反映させる。選ばれた単語は、“debt”“inflation”“stocks”“risk”などである。ダウ平均の組み込み銘柄を投資対象としてポートフォリオを組む。

 その結果、保守的な運用戦略である“Buy and Hold Strategy”が8年間で16%のリターンでしかなかったのに対し、“Google Trends Strategy”は、最大で326%のリターンを達成できたという。最大で、と言うのは、利用するキーワードによってパフォーマンスが異なるからである。最も高い感度を示したのは“debt”で、最も高いリターンを実現した。

 この調査の分析結果によれば、投資家の不安が昂じたときに、相対的に検索ボリュームが増大する傾向がある。つまり、“debt”という単語の検索が増えたならば、それは株価下落の予兆でありショートポジションを取るという判断になる。逆に検索数が減ったならば、株価上昇の予兆とみて買いを入れるという判断をする。

“Google Trends Strategy”の面白さ

 ソーシャルメディアやビッグデータが、将来予測に使えるというアイデア自体に新しさはない。しかしながら、今回の研究は、それを具体的なキーワードに落とし込んで、検索ボリュームに対応した投資戦略としてシミュレーションを実施したところがユニークである。

 “debt”のように、高いパフォーマンスに繋がるキーワードがある一方で、“energy”や“consumption”のように、相関関係が高そうでいながら、ほとんど効力のないキーワードもある。また、サーチデータの範囲が、米国のみとグローバルでは異なってくることも興味深い。感応度の高い検索キーワードは、その時々の経済状況によって変わっていくだろうし、サーチデータの範囲は、投資対象とそれに影響を与える要因によって判断されるべきだろう。

 また、SNSやツイッターなどのソーシャルメディアから得られる市場心理とGoogle Trendsから得られる投資戦略にはどのような違いがあるのだろう? ソーシャルメディア上を伝播していく、つまりシェアしたりリツイートされたりするのは、投資家が受動的に入手した情報である。

 一方、検索は投資家がより主体的に情報を入手しようとする行為である。つまり、Google Trendsの分析から得られる市場に関する知見は、特定のニュースによる一時的な反応というよりも、より本質的な投資家の意識の変化を表しているのかもしれない。

 16%と326%というのは大きな違いである。しかし、キーワードの選択やサーチデータの範囲など、Google Trends Strategyにも多くの変動要素があることを考えると、恒常的に高いパフォーマンスを出し続けることは容易ではないだろう。この調査を行った研究者は、Google Trendsの検索ボリュームと株価に相関関係があることは確認できたが、なぜ、株を売却する前に“debt”という単語の検索を行うのか、その心理的なメカニズムを探求する必要があるとしている。

飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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