つまり、リーダーがデータによるアナリティクスに基づいた意思決定を下すほどには、アナリティクスのビジネスプロセスが成熟していなかったともいえる。「データと意思決定の間にはギャップが存在する。これまでの経験に基づいて、アナリティクスを意思決定に確実に紐付けるためのモデルが必要」とSchlegel氏。ここで登場するのがアナリティクスの最終進化形ともいえる規範的分析である。
Schlegel氏は規範的分析を「分析能力の“最後のフロンティア”」と表現している。アナリティクスのレベルがここまで到達できれば、ビジネスにもたらされるベネフィットも大きくなる。ここで重要になるのは、「非合理的な状況にあっても合理的な意思決定を下せる」(Schlegel氏)ためのモデル化とその改善だ。
非合理的な状況とは、中間の選択肢が増えたケースを想像するとわかりやすい。たとえば、あるメディアが情報提供をウェブのみで59ドル、印刷物とウェブのセットで125ドルで提供していたとする。このとき68%がウェブのみを選び、印刷物とウェブのセットを選んだのは32%だった。
ところがここに、印刷物の購読で125ドルという新たな選択肢を追加するとどうなるか? ウェブのみを選んだのは16%、印刷物の購読を選んだのはゼロ、印刷物とウェブのセットを選んだのは84%という結果に変わったのである。
つまり、選択肢が1つ増えるという外的要因のちょっとした変化だけで、人間の判断はこんなにも揺らいでしまうのだ。こうした状況にあっても、合理的で揺らぎのない意思決定を下すためには、どのようなプロセスが必要なのだろうか。
上で示したような判断の揺らぎは、実は「意思決定のプロセスが定常的かつ反復的に下されている場合に起こりやすい」とSchlegel氏は指摘する。規範的分析においては、複数の意思決定オプションについて期待される成果を算出し、その上で好ましい意思決定の行動方針を定義すべきであり、単一のプロセスに縛られることがあってはならない。つまり規範的分析に伴う意思決定のプロセスは、常に見直しの機会にさらされているともいえる。
アナリティクスがもたらすもの
Schlegel氏は最後にアナリティクスを経営に活かすための行動計画として、
- ただちに実行すべき事項:精緻な測定の適用が最も有望なビジネスプロセスを特定する
- 90日以内に実行すべき事項:チームを編成し、測定、分類するための自社能力を高める、顧客対応型アナリティクス戦略を策定する
- 1年以内に実行すべき事項:規範的分析のために意思決定を支援するソリューションを導入展開する
とした案を示している。そして、データアナリティクスに基づくビジネスプロセスが進化することで、より多くの企業が戦略的にビジネスを展開できるようになれば、「社会全体が良い方向に向かう」(Schlegel氏)というのがGartnerの主張だ。単なる予測を超え、ビジネスと社会を向上させるための意思決定へとつなげる――アナリティクスの役割は日ごとに大きくなり始めている。
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