The Washington Postは米国時間6月6日、米国家安全保障局(NSA)がMicrosoftやGoogle、Facebook、Appleを含む大手IT企業9社から協力を得て、大規模なオンライン盗聴を行うプログラムを実施しているという大スクープを報道した。しかし、この報道はすぐに迷走を始め、同紙は記事の核心部分をひそかに修正した。どこで道を誤ったのだろうか?
同紙はこの日、NSAが広範囲に展開していたプログラムに、大手IT企業9社が「承知のうえで参加していた」とする大スクープを報道した。
その翌日、何の告知もなしに同紙は記事を修正し(修正された事実を知る術はタイムスタンプしかない)、元々のセンセーショナルな主張を後退させた。しかし、元の報道を今さらなかったことにはできない。
このスクープを最初に執筆した記者は、ピューリッツァー賞の受賞歴もあるBarton Gellman氏である。そして、The Washington Postは「大統領の陰謀」としても知られているウォーターゲート事件にまで遡る調査報道の輝かしい歴史を持っている。しかし、ジャーナリズムの歴史を振り返り、その失態を挙げ連ねたとしても、今回の誤報はトップを争うものと言えるだろう。
この報道がなされた週には、米国政府による監視という、世間の注目を集める報道が他にもいくつかなされている。The Washington Postは、The Guardianの英国版と米国版による複数の報道(そのいくつかはGlenn Greenwald氏の署名記事である)によって水をあけられている状態であった。5日にThe Guardianは、裁判所がVerizonに対して同社の顧客の数百万件に及ぶ通話記録を開示するよう極秘に命令を下した件について詳細に報道している。また7日には、サイバー攻撃の対象一覧を作成するという米国大統領政策令の概要を記した機密文書に関しても報道している。
そして6日、The Washington Postが今回の件を報道した直後、The GuardianもNSAの監視に関する似たような報道を行った。The Washington Post記者のコメントから判断すると、このタイミングは偶然ではない。
The Washington Postの報道内容はショッキングなものである。
NSAと米連邦捜査局(FBI)は、米国のインターネット関連大手企業9社のセントラルサーバに直接アクセスして音声や動画、写真、電子メール、ドキュメント、接続時のログを収集することで、ある人物の行動や連絡先情報の長期的な追跡を目的とした分析を可能にしている。
この記事では、NSAが「米国企業によって米国内に設置されたサーバ内に厳重に保管されている多数の米国人アカウントの情報にアクセスしている」と主張している。そして、Microsoftと米Yahoo、Google、Facebook、Paltalk、AOL、Skype、YouTube、Appleという9社を名指ししている。さらに同記事では「NSAは、企業のデータストリーム内からどのような情報でも取り出せる」と主張している。
この報道の後、数時間も経たないうちにその他の報道機関やIT系ウェブサイトでもプライバシーの侵害であるという論調でこの件が報道された。なお、同記事で名指しされた9社のうち7社は、そういったプログラムの存在についてまったく知らなかったと主張し、参加についてもきっぱりと否定した。