組織の透明力

統制から開放へ--情報システムの役割が変わる - (page 4)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-07-08 10:45

組織の透明力とは

 最後に、この連載コラムの核心である「組織の透明力」について触れておきたい。なぜなら、この社内イノベーション改革においては「透明の力」に対する理解が不可欠だからだ。企業トップがこれを理解していない改革は、絶えず生まれる「逆向きのモーメンタム」のために、ほとんどが頓挫して失敗に終わるだろう。

 現在、多くの企業は、中央から社員をコントロールするためのシステムを構築している。社員統制のためのアメとムチによる「外発的な動機づけ」は、部門間の協業や社員の自律性を奪ってしまう。いつのまにか社員の関心は顧客から上司に変わり、社内稟議や報告書作成になってゆく。そして組織全体が顧客に鈍感になるのだ。

 透明な時代にあるべき組織像は、その対極に位置するものだ。顧客は、あらゆる接点において、迅速で誠実な対応をできる企業像を求めている。そのためには、顧客と接点を持つ現場社員が自律的に行動できるシステムを構築することが大切だ。自律性を引き出す「内発的な動機づけ」だ。

 「透明の力」とは何か。それは上司からの統制ではなく、社員の自発的な行動を促す力を表現したものだ。人間は、誰かに指示されるまでもなく、共感や評価を得たいと強く願う生き物だ。社内を透明にし、情報を可視化させ、コミュニケーションの活性化を図ることで、自然と相互評価が生まれていく。それによって、社員が自ら企業やチームにとってプラスになるになるように動き出す。

 例えば、企業は経費を抑えるために、何重にも管理者を配置し、稟議システムによって「統制」してきた。しかし、経費をすべて「透明」にしたらどうなるだろう。社員であれば、誰が何にいくら使用したかを閲覧できるようにする。統制も特別なシステムも不要だ。それだけで無駄な経費が激減することは間違いない。説明責任が生じるからだ。なぜ、それができないのか。経営層、管理層の既得権益があるからだ。ここにメスを入れられるのは、最も痛みを伴う経営者だけだ。それを理解した上で、経営者が信念を持って「透明の力」を導入するとき、組織は劇的に変わってゆくのだ。

 今、企業は「統制の力」を卒業し、「透明の力」によって社員をエンパワーメントすることを求められている。「ガミガミと言って行動させる」のではなく「自発的に会社のために行動する場を創る」こと。時代が求めているのは、このコペルニクス的な発想の転換だ。単なる性善説だけでは十分ではない。「透明化することで自律的な行動を促すこと」がポイントなのだ。実際に「透明の力」を活用する企業は増えてきている。シリコンバレーのベンチャーなどは、ほとんど例外なくそうだろう。

 すでに統制型マネジメントが浸透している大企業にとって、この経営改革は困難を極めるに違いない。その一方で、新しい文化を持つ企業が雨後の筍のように生まれ、大企業の得意分野を日々侵食している。「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」(Chris Anderson)が提起したように、大企業もベンチャーも、創造力や共感力という同じ土俵で勝負せざるを得ない時代が到来するだろう。古びた経営スタイルは、もう臨界点に達しているのだ。

 拙著にて、ソーシャルメディアが誘起したビジネスのパラダイムシフトを「ソーシャルシフト」という言葉であらわした。この記事では、ソーシャルシフトにおいて、新しい組織の原動力となる「透明の力」の生かし方を連載していきたい。共有すべき価値観や情報とは何か。過度な同調圧力や部分最適化をいかに防ぐか。公開すべき情報と非公開にすべき情報をどう考えるべきか。透明な時代に管理職の業務やリーダーシップはいかにあるべきか。

 余談になるが、僕は「踊る大捜査線」、特に青島刑事や和久さんのいる湾岸署の面々を心から愛している。彼らのように、熱い思いを持ちながら、組織の壁に日々悩んでいる人たちの力になりたい。それがこの連載記事を書く動機にもなった。ソーシャルメディア時代、事件はまさに現場で起きている。現場力をいかに高めるか、企業の明日はそこにあるのだ。

 「伝統的な労働力体制の下にあっては、働く人々がシステムに仕えたが、知識労働力体制の下では、システムこそが働く人々に仕えなければならない」 (Peter Drucker)

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斉藤 徹
ループス・コミュニケーションズ
1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM株式会社入社、1991年2月株式会社フレックスファームを創業。2004年同社全株式を株式会社KSKに売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルメディアの第一人者として、ソーシャルメディアのビジネス活用、透明な時代のビジネス改革を企業に提言している。講演回数は年間100回を超える。「BEソーシャル ~ 社員と顧客に愛される5つのシフト」「ソーシャルシフト ~これからの企業にとって一番大切なこと」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディアダイナミクス」など著作は多数。

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