つまり、こうなることでマーケティング活動というものは、これまでのモノローグ的な一方的なものではなく、あくまでも対話というダイアローグ的なものになり、消費者からのフィードバックを対話の中でダイレクトにとらえることができるようになります。さらにデジタルの世界での広告は、商品の宣伝というよりも、その背景にある実際の体験やメッセージの発信というのがますます増えてくるでしょう。
そして2つ目は、消費者の購買の意志決定の瞬間です。従来のマーケティングの世界では、販売する側と購買する側の二者間で意思決定がなされていました。しかし、デジタルな世界では、SNSなどを通じて消費者が購買者だけではなく、ほかの消費者の購買行動にも重要な影響力を持ったインフルエンサーにもなり得えるのです。例えばスーパーマーケットの棚の前に立つ消費者は、入店する前の段階で、すでにある程度商品に関する、ほかの消費者の評価を知り得ており、購入の意志が固まっていくというようなことも当たり前になるでしょう。

“1対多”ではなく“1対1”
3つ目の変化として、デジタルな世界では、“1対多”という伝統的な企業と消費者のマーケティングの関係性から、ますます“1対1”という関係性になってくるということです。消費財企業にとっては、これまでマスに対して発信していたメッセージが個人への語りかけに変わり、しかも、その個人というのが消費者だけでなく自社の従業員も含めた多様な個へと変わっていくことになるでしょう。
4つ目は、サプライチェーンに関することです。デジタルの世界では情報のスピードと質が変わってきます。サプライヤー、メーカー、流通小売企業の関係性はデジタル化した消費者の影響で再編され、より緊密に統合されたものになっていくでしょう。消費財企業はサプライチェーン全体でデジタル化に対応しなくてはならないのです。既存のサプライチェーンをさらに拡大し、企業間の連携やネットワーク化を実現した“エクステンデッドエンタープライズ”のような企業はますます拡大していくものと思います。
5つ目として挙げられるのは、小売企業の在り方の変容です。新興国を中心に10億人の新たな消費者が生まれていますが、こうした新たな市場に対応するために従来のやり方で店舗を出店したり、販促を実行したりしていては膨大な時間とコストがかかります。
デジタルな世界において、消費財メーカーは、小規模なローカルのディストリビューターからEコマースの事業者といったデジタル業界のプレーヤーまで、さまざまなディストリビューションチャネルに対応し、最適な“売り方”を定義することが欠かせません。また、この10億人の消費者の中には、初めてそのパッケージ商品を購入するという消費者も多いかもしれません。
ですから、初めての購入体験を自社ブランドによって提供することで顧客ロイヤリティを獲得することも大事です。10億人という新しい消費者を新たなチャンネルの中でいかにとらえるかということが重要なのです。
そして最後に、商品そのものに及ぼす影響についてです。デジタルの世界では、商品棚も物理的に限定されることがなくなります。これによって、商品ラインナップは多様化し、ますます個別にカスタマイズした製品や商品を提供することが可能になるでしょう。
デジタル化された世界における6つのトレンドについてご説明しましたが、どの要素も企業にとっては非常に大きな変化となります。ですから、個別の小さな変革だけではなく、企業はオペレーティングモデルを新たなステージへの進化させていく必要があるのです。
製品開発体制も変化
――今回発表された消費財向けのオペレーションモデルでは、例えばローカルからグローバルへと、リージョナルからスーパーグローバル/スーパーローカルへと一足飛びに展開することはできるのか。