ラリー・エリソンの「アップルはジョブズがいてこそ」発言
13日(米国時間)にはもうひとつApple関連で大きな注目を集める発言があった。
生前のSteve Jobsと親しかったOracleのLarry Ellisonが、有力ジャーナリストのCharlie Roseとの対談の中で、「JobsがいなくなったAppleはどうなる?」と尋ねられ、「それについてはすでに実験済み(過去の歴史をみればわかる通り)」 などと答えたという(註2)。
[Larry Ellison sees dark future for Apple without Jobs - CBS This Morning]
このビデオの中の、Ellisonの指の動きが示している通り、「Jobsがいた間はAppleの勢い(もしくは業績、株価など)が上昇、そしてJobsがいなかった(1986~96年末の)間は下降」しており、「もう一度歴史は繰り返すだろう」というが同氏の考えらしい。
この話を採り上げたThe Vergeでは、Ellisonの「大胆な予言」について、大外れしていた例もあるなどと記し、要は「当たるも八卦当たらぬも八卦」「今回の発言をどうみるかはあなた次第」といった書き方をしているが、問題はその当否よりも、なぜこのタイミングでこれが出てきたのか――Ellisonのインタビューが放映された当日に、IcahnがApple株の大量購入を明かしたのか、といった方かもしれない。
社外取締役会メンバーが懸念する「新製品開発・投入の遅さ」
この2つのニュースに比べると、それほど大きな話題にはなっていなかったが、先週(米国時間8日)にはケーブルテレビ局のFox Businessで「Apple取締役メンバーが、新製品開発の進展状況について懸念を示している」との話も伝えられていた。
[Apple Board Concerned About the Pace of Innovation? - Fox Business]
2012年9月以来の株価下落・低迷に加え、「2010年春のiPad投入以来、新分野を切り開くような新製品は出てきていない(略)テレビ関連の製品も、ウェアラブル製品(いわゆる「iWatch」) もいまだに噂だけ。しかもスマートフォンのUIやサービスなどではGoogleなどに遅れをとっている部分も目立つ(略)ついでにいうと、スマートフォンでもタブレットでも販売台数シェアが大きく後退している」などという現状を踏まえ、「新製品開発のパイプラインの状況は今どうなっているのかと社外取締役が心配している」といった内容の話である。
この話に注目したCNET News.com編集長Dan Farberの記事には、「Tim Cookのクビが危うくなっているわけではない(依然としてCookを100%支持している)」ものの、社外取締役の間では「これまでよりももっと早いペースで新製品を開発、投入することを求めるCookへの圧力が生じている」などと記している(註3)
例えば、このところのGoogleの「手数の多さ」(註4)に比べると、Appleが新製品に関してほとんどこれといった動きをみせていないことは周知の通りで、Appleユーザーでさえ心配になるくらいだから、「関係者が懸念を抱かない方がどうかしている」といったうがった見方もできるかもしれない。
Appleでは、2012年の場合と同様に、今年も秋口にiPhoneやiPadの新モデル投入を一斉に行い、それで続く一年間をしのいでいく心づもり……といった話もすでに出ている(註5)。その点を踏まえると、とくに10~12月の年末商戦期の売り上げ次第では、Tim Cookに対していよいよ「イエローカード(もしくはレッドカード)が出される」という事態も起こりかねないような気配もする。
一連のニュース(出来事)がほぼ前後して出てきたことについては、それが偶然のものか、それともなんらかの意図をもって仕組まれたものかが一番気になるところだが、現時点でそれを確かめる術は当然ない。
最後に。
「最高の製品」を出すことにこだわるあまり、Appleの手数が少なくなっているように思える点がとくに気にかかる。2012年の地図をめぐる失敗を思い出すと、つい慎重にことを進めたくなる当事者の気持ちも分からなくはないが、Jobsが生きていた間に築いた競合他社に対するリードがどんどん薄れつつあるように思える中で、何もしないことがモメンタムの喪失につながってることも、やはり無視できない。
画期的な製品を続けざまに出すことは相当難しいことだろうが、せめて今後の方向性(あるいはビジョン、かつてのデジタルハブ構想に相当するもの)を一般にも示して理解を得るなど、Tim Cook指揮下のAppleではこれまでとは異なるコミュニケーション戦略が必要になっているのかもしれない。