複数の作業を同時にこなすというマルチタスク能力は、たいていの場合に長所として扱われている。しかし最近の研究によると、そういった考えは間違っているのかもしれない。
筆者の経歴を振り返ってみるとそのほとんどにおいて、複数の作業を同時にこなすというマルチタスク能力が長所として扱われてきた。マネージャーはスタッフに対してマルチタスクを奨励し、IT部門のリーダーはしばしば、マルチタスク能力を発揮している従業員に対するポジティブな評価を口にするのである。
しかし脳の機能に関する最近の研究によると、マルチタスクはかつて考えられていたほど素晴らしいものではないという点と、昔から皆の称賛を得ていた従業員や同僚は、複数の作業を同時にこなす超人的な能力を有しているのではなく、単一の作業に集中し、それらを順々にこなしていくことに長けている傾向が強いという点が示唆されている。今まで、脳はコンピュータや携帯電話に搭載されているプロセッサのようなものだと考えられてきた。プロセッサの持っている全能力のうちの一定割合をある作業に割り当てた場合、その作業は割り当てられた能力に見合った時間で完了する。つまり、100%のプロセッサ能力を用いて1分かかる作業が2つある場合、それらに50%ずつ能力を割り当てれば2分で作業が終わる計算になる。
現実のマルチタスク
人間の脳はコンピュータとは異なり、同時に行う作業の数が増えるとともにその処理能力は著しく低下する。2つの同じような作業を同時に行おうとすると、そのパフォーマンスは50%低下するのではなく、80~95%低下する傾向があるのだ。
マルチタスクによってどの程度の非効率性が招かれるのかを考えるために、次の電話会議の場を使って「実地調査」をしてみてほしい。電子メールの整理や、ソリティアで遊ぶといった平凡な作業であったとしても、それによって議事進行についていく能力が著しく低下し、回線状況が悪い時よりも「すみませんが、もう一度言ってもらえませんか?」という発言を連発することになるだろう。
では、マルチタスクに長けた人の頭の中はどうなっているのだろうか?
この研究によると、人間の脳にとって複数の作業を同時にこなすのは大変なことだという結果が明確に示されているものの、プレッシャーにさらされながらもさまざまな複数の作業をこなしていく超人的な能力を有した人物を知っている人も多いはずだ。しかし、そういった人物をよく観察してみると、彼らはさまざまな作業をまとめ、論理的な作業順序を決めた後、1つの作業に対してレーザー光線のように強烈な集中力で取り組んでいるのだ。そして彼らは、会議中にスマートフォンをいじったり、電子メールの着信音が響くたびに手元の作業を中断してメールアプリをオープンしてみたりもしていない。つまり、彼らは複数の作業を同時にこなしているのではなく、単一の作業に集中して取り組み、その後迅速に頭を切り換え、次の作業に取りかかるという能力を有しているわけだ。