三国大洋のスクラップブック

アップルが打った将来への布石--64ビットチップ導入の戦略的意味 - (page 3)

三国大洋

2013-09-25 13:02

ジョブズとは異なる種類のクックの構想力

 「Appleは将来へのビジョンといったものを示さないといけないのだろうな」と、この一年ほどは正直そんなふうに感じることが多かった。Tim Cookには荷が重いかもしれない、あるいは期待するのは筋違いな話かもしれないが、その昔Steve Jobsがぶち上げていた「Digital Hub」みたいなもの、その2010年代版を示す必要が増している、とそんなふうに思うことが多かった。

 Cookは余計なことは口にしないから、結局表に出るのはもっぱら「自分たちがしないこと」などになってしまう。米国時間19日に公開されていたBusinessweekのインタビュー記事でも、「自分たちはガラクタ(junk)を売る商売はしてない」旨の発言をしたと一部で話題になっていたが、そんなことは「とっくの昔に承知」の事柄で、今さら聞いても一向に面白くはない……。少なくともiPodで携帯音楽プレーヤー市場をほぼ席巻したような例が念頭にある人間にとっては、「売れた数(販売台数)のシェアより、実際に使われているかどうかの方が大事」といった模範的な話は、負け惜しみにしか聞こえなくてつまらない……と、この一年余りはそんな上っ面のことだけに単純に反応していた自分に今回改めて気付かされた次第。

 Tim Cookのここ2年ほどの動きを思い返すと、CEO就任から半年間の、中でも2012年初めの3カ月間に見せた大車輪の活躍ぶりが実に印象的だったせいで、その後現在まで続いている「大人しさ」が余計に気になるところでもあった。「あまり表に出ない時のCEOというのは、一体どんな仕事をしているのだろう」などと不思議に思ったこともあった。また株主相手の動きなどに関するニュースを読んでいて、「ずいぶんと劣勢に立たされているなぁ」と感じたこともあった。

 けれども今回、この64ビットSoCへの移行の話を読み、そして前回記した「新興市場への打ち手」(の仮説)に気付いて、やはり「長期的な視点に立って構想し、着実に取り組みを進めていたのだ」と改めて感心させられた。世界で一、二番を争う時価総額の巨大企業を治める経営者なら当然のことかもしれない。また、Steve Jobsのような派手なビジョンの提示、もしくは威勢のいい言動は、この先もCookには見られないかもしれない。それでも、Cookとそして彼をサポートする幹部の間には、別の種類のしっかりとした長期的な展望がある。そういう感触がますます強くなっていて、Cookが「カミソリのような切れ者」であることを改めて思い出した。

 指紋認証のTouch IDや、センサ専用コプロセッサ「M7」についても、いろいろ面白い含みを持つものと感じられるがそれについてはまた別の機会に。次回は前述のBusinessweek記事とTim Cookのインタビュー――Androidのフラグメンテーションについても比較的多くのスペースが割かれてある――そして「Clayton Christensenの言ったイノベーションのジレンマは、iPhoneなどの場合には当てはまらないのではないか」というBen Thompson(Stratechery)の見方などを紹介する。(本文敬称略)

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