前述した日本書紀にはさまざまな神が現れるが、神がくしゃみをしたり、顔を洗ったりするたびに新たな神が生まれることもあれば、土地が生まれることもある。つまり自然界に存在するあらゆるものに神が宿る。さらに、神は1人ではなく、「八百万の神」が存在するというのが、古代日本人の神観念なのである。
神社本庁の神道の理念にはこうある。
神道のもつ理念には、古代から培われてきた日本人の叡智や価値観が生きています。それは、鎮守の森に代表される自然を守り、自然と人間とがともに生きてゆくこと、祭りを通じて地域社会の和を保ち、一体感を高めてゆくこと、子孫の繁栄を願い、家庭から地域、さらには皇室をいただく日本という国の限りない発展を祈ることなどです。
1万年以上前、縄文時代から私たちの祖先は、海に囲まれた自然豊かな土地に生き、自然と調和しながら生きることを「生きる道」だと考えた。そして、自然から採れる食物が神が与えた神聖なものだと考えたとしたならば、それをむやみに「収穫」しようとは思わなかっただろう。それに必要以上に収穫しすぎてしまえば土壌は枯れ、魚介類は死滅してしまう。ここにも「儲けすぎない」という商売人の考えに通じるものがあったのではないだろうか。
日本人のDNAと、欧米式価値観の板ばさみ
働くことを「生き甲斐」と感じる労働観。儲けすぎることを追求しない利益に対する考え方。自然とともに生きてきた宗教観。
日本人としてDNAに刻まれたこれらの労働観、宗教観、仕事や利益に対する考え方。現代社会で触れる欧米式の労働観、宗教観、仕事や利益に対する考え方。現代社会に生きる日本人はこの2つの価値観の中で生きることを迫られ、徐々にこの乖離が大きくなっているのではないだろうか。
地域とともに生きる中小企業が「日本人らしくありたい人を救う」
「日本人らしさ」との乖離が「現代日本人の生きづらさ」だとすれば、グローバル化の進む世界では、その生きづらさは増すばかりだ。
そこで、筆者はこう考える。グローバル経済で勝ち抜きたい日本人は大企業に就職し世界と戦い、「昔の日本人のように生きたい」と考える人は、中小企業に就職し地域社会と人の縁で生きる。このようにすれば、生き甲斐やワークライフバランスを考える優秀な学生を中小企業は誘致することができるようになるのではないか。
グローバル経済の中ですべての人が厳しい競争社会で生き抜かなければならないという強迫観念が、本来の日本人的価値観を失わせ、「生きづらさ」を助長してしまっているのではないだろうか。
「生き方」の選択ができる社会作り。それが、これからの日本社会に必要なのだ。
- 大元隆志
- 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を13年経験。異なるレイヤの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』など著書多数。
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