COTSの宇宙機に搭載するコンピュータもかなりコストを抑えたものとなる。現在の標準的な深宇宙探査機には「Power PC」をベースにした133MHz駆動の「RAD750」と128MバイトのRAM、256KバイトのEEPROMが搭載されている。耐放射線能力を強化したこのコンピュータは、数十万ドルもする「正気の沙汰ではないほど高価」なものとなっている。Allen氏は「1.6GHz駆動の『Intel Atom Z530』プロセッサといったものを使用すればコストを200分の1にできる」と確信している。
Linuxとオープンソースソフトウェアが適しているのは、これらによって数多くの基本的なシステム機能における機構の再発明コストを抑えられるという点と、従来の宇宙機に搭載されているソフトウェアよりもずっと安価であるという点があるためだ。Allen氏は「従来のミッションでは数億ドルから、場合によっては数十億ドルもの予算が必要だった。こうしたミッションではリスクに対してとても保守的な姿勢をとっており、宇宙機ごとに『VxWorks』やその他の商用リアルタイムOS(RTOS)を用いて専用のOSを開発している」と述べている。
しかしLinuxの採用によって、Planetary Resourcesはより安価かつずっと容易に宇宙機向けの共通OSを開発できるようになる。宇宙機で現在用いられているソフトウェアは、ほとんどすべてがカスタムメイドで、手作業でコーディングされたものとなっている。これがコスト高となる原因だ。
また、ソフトウェアとハードウェアを仮想化によって分離することで、セキュリティの向上と障害の分離がずっと容易になる。このため同社は、宇宙機にとって仮想化がとても重要になると考えている。
Planetary Resourcesは、Linuxの使用を宇宙に限るつもりはない。Allen氏は「Linuxはわれわれの引き出しの至るところに存在し得る」と述べるとともに「宇宙機内ではLinuxの稼働するシングルボードコンピュータが用いられ、地上の管制局ではそのクローンとなるシングルボードの仮想マシンが用いられるだろう」と述べている。これにより問題のトラブルシューティングを危険な宇宙ではなく、地上のエンジニアが安全に行えるようになる。
さらにPlanetary Resourcesは、同社のソフトウェアプロジェクトを管理するために「Git」や「Jenkins」といったその他のオープンソースプログラムをLinuxとともに使用する予定だ。また同社は、採掘に最も適した、そして最も手頃な小惑星を見つけ出すために、「QEMU」を用いたオープンソースベースのクラウド環境上でモンテカルロシミュレーションを行うのだという。
ここで言う手頃とは、どれだけ容易にそこに到達できるのかということだ。Planetary ResourcesのAllen氏とRamadorai氏によると、現在われわれが確認しているだけで、小惑星の数はほぼ60万個あり、その数は150万個にまで増える可能性がある。