前回に引き続き、会津若松スマートシティのレポート。今回のテーマは、複雑な利害関係を調整してプロジェクトを推進するための体制づくりである。
そこでは市の役割も重要だが、会津大学という公立大学の存在も大きい。産官学の推進体制を構築する努力も欠かせない。その土台の上で、具体的なプロジェクトが走っている。
関係者がすぐに集まる都市のサイズ
一般に、スマートシティプロジェクトは大きく2つに分類することができる。“白地”にゼロから建設するか、それとも既存の街並みをスマート化するか。
前者は権利関係がシンプルで、オーナーシップが明確な場合が多い。土地を開発するデベロッパーなどが主導するスタイルである。一方、後者は多くの人々の住む都市が対象となるだけに、権利関係は複雑だ。ステークホルダーの意見を集約するのは容易ではない。
会津若松のスマートシティプロジェクトは、後者に分類される。第1回で言及したオランダ・アムステルダム市も同様だが、一定規模以上のスマートシティプロジェクトの多くはこのタイプだ。
そもそも、人が住みたいと思うようなところには、すでに多くの住民が暮らしている。便利な場所で白地を探そうとすると、少なくとも国内では大規模な施設が移転した跡地などに限られるだろう。
したがって、多くのスマートシティプロジェクトでは、既存の権利や権限との調整が大きなテーマになる。対象エリア内で暮らす住民、事業を営む企業の中には、積極派も慎重派もある。多様な意見をまとめて合意を形成するには、長い時間と粘り強いコミュニケーションが必要だ。
一方、推進する側の体制づくりも重要だ。会津若松の場合、中心的な役割を担うのは市だが、スマートシティには市役所のさまざまな部署が関わる。住民と企業に対しては、それぞれ別の部署が日ごろ向き合っている。また、国の支援を受ける事業の場合、総務省や経済産業省といった担当省庁に対応する窓口も異なる。それらが連携し、同じ方向を向いて動かなければならない。
「大規模な組織なら役割に応じて専任チームを作れるかもしれませんが、会津若松市役所の職員は900人弱ですから、そういうわけにはいきません。具体的なプロジェクトについて担当部署を決めても、必ず別の部署との連携が必要になります。そこで、最初から組織横断的に物事を進めるようにしました。会議が増えるなど職員に負荷がかかる面もありますが、このやり方のほうがスムーズにプロジェクトを進めることができます」と会津若松市長の室井照平氏は説明する。
市役所内では市長や副市長が調整役を務めることもあるが、現場レベルでは企画調整課が大きな役割を担っている。さらに、全体のとりまとめや方向性を示すのは、市長が主宰する「スマートシティ会津若松推進会議」。そのアドバイザイリーには、会津大学の理事・復興支援センター長を務める岩瀬次郎氏とアクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長の中村彰二朗氏が名を連ねている。
「プロジェクトを推進する上で、スマートシティやITに理解のあるリーダーの存在は不可欠です」と中村氏は言う。会津若松市にそんな市長がいたということは、ある意味で僥倖である。中村氏がこう続ける。
「都市のサイズがちょうどいい。いろいろな関係者がすぐに集まれますし、深いレベルでコミュニケーションを取ることができる。横串のプロジェクトも進めやすくなります。会津大学という研究教育機関もあるので、先端的な実証実験を行うには最適の環境が揃っていると思います」
政令指定都市レベルの大都市で、市長を交えたミーティングを開くにはスケジュール調整だけでかなりの手間がかかるはずだ。会津若松の規模であれば、必要があれば当日か翌日に関係者が顔を合わせることもできる。合意形成とスピードの観点で、これは非常に重要なポイントだ。