福島県会津若松市で進行中のスマートシティプロジェクト。先行的にスタートしたのが、100世帯に家庭エネルギー管理システム(HEMS)を設置して電力消費を見える化するスマートグリッド事業である。この事業のキモと考えられたのがデータの扱いだ。
どこにデータを置き、誰が管理するのか――。会津若松市では地元のデータセンターにデータを集約し、新サービスの可能性を広げた。それは、メーカー縦割りという現状へのチャレンジであり、スマートシティの将来モデルにつながる第一歩となった。
HEMSメーカーに通信インターフェース公開を打診
前回、スマートシティプロジェクトにおける複雑な利害関係、それを調整する体制や機能の重要性について説明した。複雑な利害関係は各所に遍在する。プロジェクトを推進するコンソーシアム内部だけでなく、住民と企業、住民同士の間にもある。スマートシティのコンポーネントを提供するメーカーも、それぞれが異なる思惑を持っている。
その1つの断面を“データ”に見ることができる。「データを誰が管理するか」「どのように利用するか」は、ビッグデータの扱いでしばしば議論の対象になるテーマである。
言うまでもなく、スマートシティの“スマートさ”を根幹で支えているのは膨大なデータである。刻々と変動するエネルギー消費の最適化、交通渋滞の抑制対策などを実施する上で、“今何が起きているか”を可視化するデータは決定的な役割を担う。
会津若松スマートシティでは、100世帯にHEMSを配布して取り組むスマートグリッド事業では独自のアプローチが採用された。
その前に、従来型アプローチについて考えてみたい。アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長の中村彰二朗氏がこう説明する。
「国内外には多くのHEMSメーカーがあります。従来、これらのメーカーは自社製HEMSを設置した場合、そのデータを自社データセンターに集約するケースが一般的でした。しかし、これでは自治体などの事業主体がデータを利用したい時に大きな制約が生まれます」
HEMSメーカーにとっては、電力消費などのデータが手元にあれば次のビジネスチャンスにつながる可能性がある。例えば、ハウスメーカーと組んで節電コンサルティングのサービスを提供する、あるいは省エネリフォームの需要を掘り起こすことができるかもしれない。
その場合、スマートシティの事業主体がデータを利用するには、各メーカーとの交渉が必要になる。合意に達したとしても、手間をかけてデータの形式を変更する必要があるかもしれない。
いったんHEMSデータが複数メーカーのもとに分散すると、地域軸でデータを一元化するのは容易ではない。そこで、会津若松市のスマートグリッド事業ではすべてのHEMSデータが域内データセンターに集まる仕組みを構築した。そのためには、いくつかのハードルを乗り越える必要があったと中村氏は言う。
「会津で進められているスマートグリッド事業では、通信インターフェースの公開が必須です。この取り組みに賛同していただいた3社のHEMSを100世帯に配布し、標準化された形でデータを地元に集約する仕組みが整いました。スマートグリッド事業に関して言えば、これが最大のチャレンジだったと思います」
その3社はパナソニックとオムロン、東芝。他メーカーは通信インターフェースを非公開としたが、この辺りは各社の事業戦略に関わる判断である。
実は、オランダ・アムステルダム市が抱えていた課題の1つがデータの集約であり、同市と会津若松市の連携協定が実現した大きな理由もそこにある。
スマートシティについて経験豊富なアムステルダム市から学ぶことは多いが、情報や知見の流れが一方通行ではパートナーシップが成立しない。会津若松市のデータ集約の取り組みと成果に対して、アムステルダム市は大きな関心を寄せているようだ。