三国大洋のスクラップブック

マイクロソフト新CEO就任その1--8年という時間を要した「反主流派」の起用 - (page 2)

三国大洋 2014年02月07日 07時30分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 随分前の話になるが、2006年の年明けに『Ray Ozzieが「マイクロソフトのWeb 2.0宣言」を書いた理由』という記事が掲載されていた。Silverbergらとともに働いたこともある中島聡氏が寄稿されていたものだが、その中に次のような一節がある。

 Internet Exploler(IE)とWindows95を大成功に導いた一番の立役者であったSilverbergは、「IEで勝ち取った圧倒的なブラウザのシェアをテコにして、MSNをインターネットサービスの覇者にしよう」という戦略を提案したのだが、Gatesは「莫大な利益を生み出しているWindowsビジネスを守る防具としてIEを利用したい」というAllchinの願いを聞き入れてしまったのだ。

 そんなGatesに失望したSilverbergは引退を決め、それに続くように、Ben Slivka、John Ludwig、Adam Bosworth、Mike Tougonhiなど、Microsoftのインターネット戦略を担ってきた「インターネット急進派」のリーダーたちがそろってMicrosoftを去ることになってしまった。当然の結果として、MicrosoftはAllchinを筆頭とした「Windowsビジネス擁護派」が主要なポジションを占めるような保守的な会社になってしまったのだ。

 2000年前後にあった動きを記したものだが、ここからはSilverbergがアンチ「Windowsビジネス擁護派」――cash cow(稼ぎ頭のビジネス)であるWindowsやOfficeを温存することに早くから意義を唱えていた人物、ということがうかがえる。

 さらに、Bill Gatesが2005年あたりに重大な危機意識を抱き、組織・事業変革のためにわざわざ招き入れた「外様」のRay Ozzieが、「The Internet Services Disruption」という、Gatesの「Internal Tidal Wave」と並ぶ重みを持つメモ(社内向け文書)をまとめたことや、その後クラウド時代に向けた「Windows Azure」の青写真を描いた(「Windows Azure」の意味--R・オジー氏が展望するクラウドの世界)こと、さらにそのOzzieがSteven Sinofskyなどとの確執から同社を去ったことなども思い出される。

 今回の寄稿記事の中で、Silverbergは「Microsoftは外部から来た幹部に冷たく」(“Microsoft has not been kind to execs brought in from the outside”)などと書いている。これが全般的傾向を指してのものかどうかはよく分からない。だが、冷たくされたであろう外部者の1人としてOzzieの名前を思い浮かべてしまうのは、いささかうがった見方と言えようか。

 Ray Ozzieが中島氏の言う「外様」であったとすれば、ウェブサービスやクラウド(BingやAzureなど)の分野で実績を積んできたSatya Nadellaを、Ozzieに連なる「社内の外様」あるいは「反主流派」と見ることもできる。そして、そうした人間のCEO就任をSilverbergが高く評価することは当然とも思える。

 それと同時に、Microsoft社内で「ある種の宗教論争」と言えそうなものがずっと続いて来ていたことにも改めて気づかされる(もう少し正確にいうと、Ozzieのメモが公開された2006年初めから、Steve Ballmerが「Device and Service Company」への転換を打ち出した2013年夏、あるいはその前年である2012年11月のSteven Sinofsky退任あたりまで、となろうか)。

 Microsoftがいかに追い詰められているのか、毎年何千億円という利益を生み出すWindowsとOfficeという2つのビジネスを擁護しつつ、同時にそれをコモディティ化する力を持つインターネットサービスで成功を収めようということがどのくらい困難なことか、が見えてくると思う。

 と中島氏が書いたのが2006年1月のことだが、その後に起こった大きな変化――iPhone、Android、Amazon Web Services、Facebook、Twitterなど挙げれば切りがない――を考えると、Microsoftが当時すでに直面していた事態の深刻さが、その後の約8年間に大きく緩和されたとは思われない。Bill Gatesとしては、新たなビジョンの実現に手をこまねいているSteve Ballmerの姿に、さぞかし歯がゆい思いをしていたのではないか……そんな想いも浮かんでくる。

 また、見方によっては「8年間のロス」とも取れるこの停滞期間のことを考えると、Brad Silverbergが「(Microsoftにとって)2014年は勝負の年(“2014 is the year when it(=Microsoft) needs to set the trajectory up and to the right”)」であり、「もう無駄にできる時間は無い(“There's no time to waste”)」としているのも、うなずける。また、「社内外の課題把握や人事の掌握に時間がかかる外部の人材を起用する余裕はなかった」と実質的に指摘し(An outsider would take the next year learning the issues and establishing his legitimacy)、その点で「すぐにでも動き出せるNadella(“Satya can hit the ground running”)」は最適、という決断もすっきりと理解できる。

 2000年前後から存在し続けていたとされる対立――「PC」もしくは「Windows & Office」(テーゼ)対インターネット(アンチテーゼ)の対立を、 Nadellaが「モバイル+クラウド」でうまく止揚(昇華)できるかどうか。その結果は意外と早いうちに出てくるのかもしれない。

 まだまだ書きたいことは浮かんでいるが、ひとまず筆を置く。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連ホワイトペーパー

SpecialPR

連載

CIO
月刊 Windows 10移行の心・技・体
ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
セキュリティインシデント対応の現場
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft Inspire
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]