独SAPが同社のクラウドサービスの拠点となるデータセンターを日本で開設した。ユニークなのは、同社ならではのパートナー企業との協業形態だ。
SAPが日本にデータセンターを開設
「SAPはクラウドビジネスにおいてもパートナー企業との共存共栄を重視し、オープンなエコシステムの構築に努めていきたい」
SAPジャパン代表取締役社長の安斎富太郎氏は4月7日、同社が開いたクラウドビジネス戦略に関する記者会見でこう語った。
同会見には、独SAPの幹部も登壇し、同社がアジア太平洋地域で初めて日本にデータセンターを開設したことを発表した。その内容の詳細については関連記事を参照いただくとして、ここではSAPならではのクラウドビジネスにおけるパートナー企業との協業形態に注目したい。
記者会見に臨むSAP AG プロダクト&イノベーション担当のVishal Sikka氏(左)とSAPジャパン代表取締役社長の安斎富太郎氏
SAPは同社のクラウドサービスの提供形態について、かねてより自社のクラウドデータセンターから提供するだけでなく、グローバルな地域や業種・業態などの特性を踏まえて多様なサービスを提供できるように、それぞれの条件に適合したパートナー企業と密接に連携しながらビジネスを広げていく方針を打ち出している。今回の会見でもSAP幹部や安斎氏は、こうしたパートナー戦略を強調した。
問われるクラウドビジネスモデルのあり方
その中でも、SAPならではのユニークな戦略として注目されるのは、いわゆる自前のクラウドにこだわらず、パートナー企業のデータセンターにおいてもSAPのクラウドサービスを運営し提供できるようにしたことだ。
パートナー企業との協業については、グローバルレベルで競合する他のクラウドサービスベンダーもSAPと同様、エコシステムづくりに注力しているが、SaaSについては代理販売、PaaSについてもその上で開発するアプリケーションやそれを相互連携する場を提供する形で、基となるSaaSやPaaSは当のベンダーが自前のクラウドで運営しているケースがほとんどだ。
そうしたクラウドサービスベンダーが自前クラウドにこだわるのは、顧客と直接つながることで、いわゆる直販メリットが得られるからだ。データセンターをはじめとした投資はかかるものの、顧客の囲い込み戦略としては効果絶大とみているわけだ。
顧客側も自らの業務データをグローバルで名が通った信頼できるベンダーに預けることによる安心・安全や安定したサービス、迅速な改良といったメリットが得られる。ただし、懸念されるのはベンダーロックインの状態になる可能性があることだ。
ビジネス手法の違いでいえば、垂直統合型と水平分業型ともいえそうだが、今のところ、グローバルで幅広い分野のクラウドサービスを提供するベンダーの中で、水平分業型を打ち出しているのはSAPだけだ。果たして、クラウドビジネスとしてどちらが大成するか。クラウドサービスのビジネスモデルのあり方を問う選択ともいえそうだ。