これらを踏まえて長崎氏は、クラウドの要件としてしばしば主張される「セルフサービス、完全自動化、追跡、監視」などについて「プライベートクラウドの92%は、依然としてコアな要件を満たしていない」というForrester Researchの見解を紹介。プライベートクラウドを構築してみたが、実際には運用が難しく、必ずしもニーズが満たされていない企業が多い現実があるとした。そして、AWSがブライベートクラウドに勝ることを次のようにアピールした。
「企業がクラウドに対して本当に求めているのは、プライベートなネットワーク、プライベートなコンピュートとストレージ、プラベートな鍵管理、ガバナンス、セキュリティだ。(プライベートクラウドは)2010年頃のAWSに似た機能しか持たず、自動で進化しないものに多額の費用をかけている。AWSは、必要とするプライベート要件を満たし、初期費用がかからず、毎年数百の新機能やサービスが追加され続ける。どちらを選択するかという問題だ」
長崎氏は最後に、親会社のAmazon.comの哲学である「顧客中心」「インベンション」「長期的視点」がAWSのサービスに反映されていることを強調。それを示すサービスとして、ユーザー企業がサービスをムダに使用していることをリコメンドする「AWS Trusted Advisor」を挙げ、「これまでに、百万以上のリコメンデーションと200億円以上の顧客サイドでのコストを削減してきた」ことを紹介。「顧客の声を聞きながら、イノベーションを続けていく」と話した。
ガリバーインターナショナル 経営戦略室 執行役員 許哲氏
KinesisやDynamoDBなどを活用するガリバー
基調講演のゲストスビーカーとして最初に登壇したのは、ガリバーインターナショナルの許氏。許氏は、AWSを使った、クルマとコミュニケーションできる「DRIVE+」を紹介した。DRIVE+は、LINEが提供するマーケティングサービス「LINEビジネスコネクト」を使ったスマートフォンアプリ。API経由でクルマを停めた位置や走行距離をユーザーに知らせてくれる。
「いわゆるコネクテッドカーのサービスだが、コネクテッドカーは、新車についてしか語られていない。だが、バッテリ切れは年間80万件起こるなど、安全をサポートする仕組みは新車だけに限らない。そこで、中古車でも今すぐにでも使えるサービスとして開発した」(許氏)
8月にリリースする予定で、具体的な機能としては、クルマを停めてからの時間を教えてくれる「停めて何分?」、クルマを停めた位置を教えてくれる「車ドコ?」、残りの燃料で走行可能な距離を教えてくれる「あとドレダケ?」、トラブルの際にロードサービスにつないでくれるトラブルサポート機能などを提供する。
「走行情報を収集し、リアルタイムでデータを処理するために“(ストリーミングデータ処理サービスの)Amazon Kinesis”を利用している。また、走行情報を保存するデータストアとしては“(キーバリューストア=KVSの)Amazon DynamoDB”を、蓄積されたデータの格納基盤としては“(データウェアハウス=DWHの)Amazon Redshift”を利用している。開発にかかった期間は5カ月。コストは3分の1で済んだ。スケールしても、同じアーキテクチャで対応できることもポイントだ。今後もAWSのインフラを使ってイノベーティブな活動を積極的に推進したい」(同氏)
積水化学工業 情報システムグループ長 寺嶋一郎氏
グループウェアを移行させた積水化学
積水化学工業の情報システムグループ長の寺嶋一郎氏は、グループで利用している情報共有基盤「iSMILE」をAWSに全面移行した事例を紹介した。積水化学グループは連結ベースの従業員が約2万3000人で、そのほとんどが関連会社と子会社に在籍する。グループの情報共有には、Linuxとオープンソースソフトウェア(OSS)をベースに自社開発したグループウェアを使っていたが、メール容量の不足やアーカイブ、ハードウェア更新の手間、事業継続計画(BCP)対応などが課題となっていた。
そこで、グループウェアなどのSaaS、システムの全面刷新、IaaS(AWS)への移行という3つのシナリオについて、コスト(運用費とハード更新費を加えた5年間のTCO=総所有コストで計算)、BCP対応(二重化)、アーカイブ(社外送信メールのみ長期保存)、ユーザー操作(UIの変化が少ないこと)、メールボックスの容量(現状の100Mバイトから数Gバイトまで)の5項目で比較検討。最終的に、すべてのニーズを満たし、総合評価が高かったAWSを採用した。
「懸案事項となったのはセキュリティとI/Oのパフォーマンス。セキユリティについては“(AWSのリソースを仮想的に専有できる)Amazon Virtual Private Cloud(VPC)”と“(専用線接続サービスの)Amazon Direct Connect”を使って、自社の専用データセンターのように安全に扱えるようにした。パフォーマンスについては、DynamoDBを使うことで対応した」(寺嶋氏)
マネジメントコンソールからすべての操作ができることが人的な運用ミスを招きかねないことを踏まえ、「Sheltie」という管理ツールを自作。マネジメントコンソールを利用せずに日常的な運用ができるようにした。