楽天証券代表取締役社長の楠雄治氏は、80年代日本ディジタルイクイップメントのシステムエンジニア(SE)としてキャリアをスタートさせた。金融関係のシステム構築を担当し、その後、米国に渡ってMBAを取得している。
こうしたキャリアを持ち、2006年からトップとして指揮を執っていた楠氏にとって、2005から2009年あたりまでは大変苦しい時代だったに違いない。当時の楽天証券は、システムトラブルに見舞われ、業務改善命令や行政処分を受けていたからである。
2011年に楽天証券はOracleの垂直統合型システム「Exadata V2」を導入し、2014年にはさらに処理能力の高い「Exadata X3」を導入した。Exadataをバックエンドのシステムとしてではなく、取引システムとして最初に活用したのは楽天証券だ。
現在はV2からのデータ移行も済み、順調に稼働している。アプリケーションを書き換えることなく処理性能を拡張できる点や、フラッシュによる高速処理、ハードウェアとソフトウェアを一元管理できる点などを評価したという。
また、取引処理基盤として活用していた「SPARC」サーバを「SPARC T5」に移行させたことで、システム同時処理数とメモリ容量がともに8倍に増えたという。単位時間あたりの処理能力は従来比3.3倍になり、取引所への株式注文処理や取引所からの約定通知の反映速度の高速化、バックアップ処理時間の短縮などを実現。安定したシステムを実現した。
楽天証券社長の楠雄治氏は元SEの経歴を生かし、少なからずシステム構築にかかわっている
慎重なテストを実施
Exadata導入時のテストは慎重を期して実施された。
「安定稼働を最重要目標にして、冗長化構成にすることはもちろん、あらゆる観点からテストを実施しました。システム部門だけではなく、社内の品質管理部門も参加させ、少しでも問題があれば立ち止まり、手戻りを覚悟でテストを繰り返しました。稼働後も、ささいなバグも見逃さないようチェックしています」と楠氏は語る。
その結果、同社のシステムは現在約170万口座を抱えているが、将来的に300万口座となった上で、2013年のアベノミクス相場のように市場が盛り上がったとしても、問題なく稼働することを確認した。
300万口座達成について、楠氏は5年後を目標にしているという。つまり、5年先を見越したIT投資を実施したことになる。金額的にもかなり高額な投資になったようだ。楠氏に、同システムのリソース管理について聞いてみた。
「口座をお持ちのお客様の1日の取引回数は、市場の状況によって上下はあるものの、おおよそ把握できます。問題は、新規顧客の数です。実績から推測して適切なリソースを用意します。300万口座に達しても大丈夫というのは、そうした想定から申し上げていることです」