本田技研工業は、世界中の取引先とのCADなどのデータ交換をスムーズに行うために、クラウドを使った一元的なサプライヤーネットワーク「Global Supplier Network(GSN)」を構築中だ。4月にタイとインドから取り組みを始め、2015年1月までに、マレーシア、中国、ブラジル、イギリス、トルコ、ベルギーなどにシステムを展開する。将来的にはSCM再構築の基盤にするという。
10月9~10日に開催された「NTT Comunications Forum 2014」の特別講演『ハイブリッド・クラウドを活用したCADデータ交換環境「GSN」』で、本田技研工業IT本部 システムサービス部 グローバルマスター管理ブロック ブロックリーダーの藤田幹也氏が明かした。
従来のサプライヤーネットワークは、ホンダの国内拠点、国内研究所、タイ、欧州、北米などでそれぞれ個別のクラウドサービスを使って構築されていた。データ交換に2週間もの時間を要したり、大容量データの交換が不安定だったりと、設計・開発・生産のグローバル化にタイムリーに対応できずにいた。
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そこで、クラウドの基盤として、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)がグローバルサービスとして展開する企業向けクラウド基盤「BizホスティングEnterprise Cloud」と、ファイル転送サービスの「Bizストレージファイルトランスファー」を採用。国内拠点と海外拠点をハイブリッドクラウド環境として構築し、スピーディなデータ配信による開発生産業務の短縮を図った。
講演で藤田氏はまず、ホンダのグローバル戦略として、高品質な現地開発、現地ニーズの反映、グローバル生産を進めており、IT施策もビジネス課題に合わせて実行されていることを紹介した。例えば、二輪事業では、グローバルでの生産・調達網の活用がテーマで、四輪では6地域(日本、北米、欧州、中国、南米、アジア太平洋)同時開発や現地最適図面、生産効率向上がテーマになっている。
本田技研工業
藤田幹也氏
「ホンダはグローバルなモビリティメーカーとして、開発拠点数は世界17カ国50拠点、生産拠点は世界23カ国69拠点に達している。クローバルでの製品開発、調達、生産の強化は急務の課題だ」(同氏)
IT施策もこうしたビジネス課題に対応して実施している。大きく、グローバルインフラ統合、システムとデータ標準化、コミュニケーションツール進化、データセンター進化、ITセキュリティ強化、運用統合効率化があるという。今回の取り組みは、デザインと初期開発を実施した後のCADデータを、取引先と共有し、開発、量産準備、量産と販売をスムーズに実施するものとなる。
この取引先データ交換においては、中国・アジア太平洋地域、南米でのインフラ整備の立ち遅れなどから、データ交換に2週間以上かかることが課題になっていた。また、取引先への送信データサイズに制限があったり、取引先がオンライン環境を維持するのに費用がかかり取引先の負担になっていた。そのほか、新規取引先登録が契約、設定などで1カ月以上かかっていたことや、各国の取引情報管理が拠点任せだったこと、設計、製造情報発信方法が複数で煩雑だったことなどがある。
「目標とした要件は、2週間かかっていたデータ交換を1~2日に、契約期間を1カ月から1日に短縮すること。ネットワーク帯域も最大で100GBまで拡張し、14〜17万円かかっていたオンライン維持費もゼロを目指した。このほか、取引先情報の一元管理やポータルでの情報の一元化も図った」
こうした要件を検討した結果、キャリアとして安定した品質があり、グローバルでサービスを提供できるNTT Comのクラウドを選択した。テレコムの強みとして、英語と日本語でのフリーダイヤルのヘルプデスクをサプライヤー向けに提供できることも大きなポイントだったという。
具体的なシステム構成としては、BizホスティングEnterprise Cloudを使って、ホンダの国内拠点をつなぐゲートウェイ、情報ポータルを構築。そこに、ファイル転送サービスのBizストレージファイルトランスファーを組み合わせた。ゲートウェイでは、複数部門、複数拠点、複数ユーザーで同時に送受信できるようにし、CADサーバとの連携、承認機能のフロー化、送受信情報・履歴共有などを行える。また、ファイル転送は、サプライヤー間または多拠点間CAD送受信に利用するという。
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今後の施策としては「グローバルでのサプライチェーン(SCM)マネジメントがある。各極、拠点独自のSCMシステムを導入しており、これを統一サービスとして構築していく」とした。最後に松下氏は「常に進化するクラウドサービスを提供してほしい。より低価格でよりよいグローバルサボートを実現してほしい」とNTT Comへの期待を述べ、講演を締めくくった。