本論の前に、私事で恐縮ですが、弊社Leonis&Coは6月30日にトランスコスモス社の子会社になることを発表いたしました。
今後はトランスコスモス オムニチャネル推進室 室長も兼任し、両者の強みを生かした総合オムニチャネル支援サービスを展開してまいります。これを機により一層オムニチャネルへの研究を進めると共に、そこから学んだことを本連載で発信していきたいと思いますので今後ともよろしくお願い申し上げます。
オムニチャネルを新しい視点で読み解く
前回、オムニチャネルはチャネル統合ととらえるのではなく、「スマホを持った顧客のショッピングスタイルに対応すること」といったお話をしました。この観点で考えていくと、オムニチャネルはチャネル統合や実店舗との融合といった定番施策以外にも幅広い可能性があることがわかってきます。
第2回となる今回は、各社のオムニチャネルに対する取り組みを、その裏側にある考え方も含めて紹介することで、オムニチャネルに対する新しい視点を提供したいと考えています。
東急百貨店はスマホアプリで新しい顧客接点を構築した
最初に、弊社が支援している東急百貨店の取り組みを紹介していければと思います。東急百貨店は、多くの百貨店が米国の「Macy's」をお手本にチャネル統合に邁進するなか、異色な取り組みを進めています。
東急百貨店は他の日本の百貨店と同様、商習慣の関係上、いわゆる米国のような完璧な在庫管理システムを有していない会社です。多くの百貨店はこの状況下でもMacy'sと同様在庫一元管理を目指しているわけですが、東急百貨店がオムニチャネルの中心施策として展開しているのはそれと一線を画す、「スマホを用いた新しい顧客接点の構築」です。この背景には東急百貨店が2012年に迎えた経営環境の変化がありました。
日本でも一部企業でO2Oやオムニチャネルといった言葉が注目を浴び始めた2012年はじめ、東急百貨店はヒカリエShinQsの開業や、渋谷駅の改編とそれに伴う旗艦店舗である東横店の縮小などにより、顧客の大幅な入れ替えが発生していました。この結果、紙DMを届けられる顧客が減少したほか、紙ではなくスマホでコミュニケーションを取るオムニチャネル型の顧客が他の百貨店と比べて急激に増加しました。
東急百貨店ではこの新しい顧客と顧客接点を構築するにあたって、旧来のコミュニケーション施策ではなく、スマホアプリを用いた新しい顧客コミュニケーションを築くことをオムニチャネルの第一手として採用しました。
この施策は新しい顧客から高い支持を得て、年間目標の2倍以上の会員数の獲得と、紙DMと比較して4~5倍の効果を実現することに成功しています。また、どのような趣味趣向を持った顧客が流入してきたかといったデータ分析を通して会員カードに頼らない顧客洞察を得ることに成功しました。