“玄関先の仁義なき戦い”--電力小売自由化のインパクト

怒賀新也 (編集部)

2014-11-12 07:30

 2016年をめどに小口の電力市場が開放される。これまで60年以上にわたって東京電力など各地の電力会社が独占的に販売していたが、ついにこの体制が崩れることになる。

 対象となるのは一般家庭やコンビニなど小規模の商店や事業所向けで、電力量こそ全体の4割だが、東京電力では利益の9割以上を占めており(2012年時点)、電力会社としては最も重要な顧客層と言える。

 この変化する市場の攻略に向け、シェアを守ろうとする既存の電力会社と新規参入を計画する国内企業、さらには外資系企業を交えた仁義なき戦いが始まると言われている。

アビームの執行役員プリンシパルで、電力・ガスシステム改革対策特命チーム責任者の小野田敬氏
アビームの執行役員プリンシパルで、電力・ガスシステム改革対策特命チーム責任者の小野田敬氏

 自由化に対応するさまざまな立場の企業向けに、その成功を支援しているのがアビームコンサルティングだ。アビームの執行役員プリンシパルで、電力・ガスシステム改革対策特命チーム責任者の小野田敬氏は、自由化後の最も象徴的な景色として「玄関先の仁義なき戦い」を挙げる。

 例えば、食品など日用品の通販サービスを手掛ける生活協同組合は、顧客に商品を届けるドライバーに、玄関先で電力販売の営業をさせるといったイメージでの事業展開を考えているという。

 電源そのものというよりも、既存事業における顧客を囲い込むためのツールとして、電力サービスを位置づける動きがある。その際に、新たに電力サービスの提供を開始する企業にとって重要なのが「既に顧客を持っているかどうか」だと小野田氏は指摘する。

 コンビニエンスストアや百貨店、携帯電話などが仕掛ける「ポイント」に代表されるような、いわゆるサービス競争に電力業界が足を踏み入れることになる。

 今回の規制緩和に沿って、新たに電力サービスの開始を表明している企業は、ソフトバンク、オリックス、生協、JCOM、NECなど。

 電力会社はこれまで、電気代を値引きするような経験はほとんどなく、ポイントサービスなど百戦錬磨の小売り企業が展開するようなノウハウを持っていない。「既存のビジネスの延長線上にビジネスをイメージしていると痛い目に遭う」と小野田氏は指摘する。

 もちろん、新たに参入する企業には、いくつかの参入障壁が立ちはだかるのも確かだ。1つは、肝心の電力をいかに調達するのか。電力会社もしくは既に参入している企業と契約を結んで電力を確保する方法がメインになる。一方で、今後はテクノロジの進化を背景に新たな調達方法が登場することも期待される。また、電力サービスを購入してくれる有効な数の既存顧客を抱えているかも第一関門での課題になってくる。

ニューヨーク市のリバーデールカントリー校は、米国で初めて動力学的なエネルギーを、圧電的にではなく、機械的なシステムを通じて電気に転換するタイルを採用した学校だ。このタイルは、エネルギーの量を表示するLEDボードに接続されており、生徒の歩行からのエネルギーだけでスマートフォン充電ステーションに電源を供給している
ニューヨーク市のリバーデールカントリー校は、米国で初めて動力学的なエネルギーを、圧電的にではなく、機械的なシステムを通じて電気に転換するタイルを採用した学校だ。このタイルは、エネルギーの量を表示するLEDボードに接続されており、生徒の歩行からのエネルギーだけでスマートフォン充電ステーションに電源を供給している

プロジェクト管理のノウハウが成功の鍵

 エンドユーザーの視点から見ると、電力が自由化されることで、競争原理によるサービス競争などで値引きなどを受けられるなどの利点がある。これまでも、日本国有鉄道がJRになり、電電公社がNTTになり、日本郵政公社が日本郵政に、それぞれ民営化し、競争原理を背景にしたサービス競争が生まれたことは参考として頭に浮かんでくる。

 また、電源の供給元を自ら選択できることによって「再生可能エネルギーだけを使いたい」といった希望がかなう点にも注目できる。後者については、実際に欧州の消費者に多い。

 アビームは、電力市場が開放されることにより、守る側である既存事業者からも、攻める側である新たな電力サービス事業者からも、ビジネス支援を求められているという。

 競争優位を目指した仕組みを作る際、別々のITベンダーが絡んで、複数の部門にまたがってプロジェクトを進めるような場面が出てくるという。「統合的な管理がどうしても必要になってくる」。

 小野田氏は「法制度が定まっていないため、さまざまな仕組みを“仮決め”し、鳥瞰図を描いておくことが重要」と話す。それを基に、システムテストのシナリオの準備や、結合テストを全体として実施していくのが成功の鍵としている。「郵政改革の際に、マルチベンダーが絡むIT導入プロジェクトを担当した経験が生きている」と振り返る。

 あらゆる人が利用する電力は市場が大きく、自由化した際の影響範囲は広範囲かつ非常に大きなものになると考えられる。外部環境の変化に、企業がどのように対応していくのか手腕が試されることになりそうだ。

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