マイクロソフトのパブリッククラウドサービスが、IaaS/PaaS/SaaSのすべての分野で日本国内のデータセンターから提供される形となった。その差別化戦略の拠り所として同社が挙げた点が非常に興味深かったので取り上げたい。
IaaS/PaaS/SaaSを日本のデータセンターから提供
日本マイクロソフトが先ごろ、日本市場における法人向けパブリッククラウドサービス事業の強化策として、SaaSの「Microsoft Office 365 」および「Microsoft Dynamics CRM Online」を日本国内のデータセンターから提供開始することを発表した。
同社は今年2月に日本のデータセンターからIaaS/PaaSの「Microsoft Azure」を提供開始しており、今回の強化策によって、法人ユーザーは日本のデータセンターからIaaS/PaaS/SaaSの主力サービスを利用できる形となった。Office 365は今年内、Dynamics CRM Onlineは2015年第1四半期(1~3月)までに提供される予定だ。
日本マイクロソフトの樋口泰行社長は今回の強化策について、「日本市場においてAzure、Office 365、Dynamics CRM Onlineの事業は、いずれもこの1年間で2倍以上伸長した。この勢いをさらに加速させるために、すべて日本のデータセンターからサービスを提供できるようにした」と語った。
発表内容の詳細については関連記事を参照いただくとして、会見で樋口氏とともに説明に立った米国本社のJohn Case(ジョン・ケース)コーポレートバイスプレジデントの話の中で非常に興味深い点があったので、ここで取り上げておきたい。
マイクロソフトが差別化戦略の拠り所とする調査結果
Case氏が語った興味深い話とは、マイクロソフトの法人向けクラウドの差別化戦略についてだ。同氏はその差別化ポイントとして、「IaaS/PaaS/SaaSが揃ったパブリッククラウドをはじめ、プライベートクラウドとも組み合わせたハイブリッドクラウドとして柔軟に利用できる」「グローバルに幅広く展開している」「エンタープライズグレードである」「すでに多くのユーザーが利用しているOfficeなどと同様のエクスペリエンスを提供している」といった点を挙げた。
その上で、「IDCの調査によると、63%の法人がクラウドサービスを1社のベンダーから購入したいと考えていることが明らかになった。マイクロソフトはそのニーズに応えることができる。これこそ大きな差別化ポイントになると考えている」と強調した。
この発言で筆者が興味深く感じたのは、IDCの調査結果そのものだ。63%の法人がクラウドサービスを1社のベンダーから購入したいと考えているのならば、「法人はクラウドサービスの利用において、ベンダーロックインを避けて選択肢を保持したいと考えている」との通説が覆ることになる。
そこで、日本マイクロソフトの広報にCase氏の発言内容を確認したところ、IDCの調査はマイクロソフトが依頼したもので、その核心部分は次のように表記されている。
「クラウドサービスを利用する法人の63%が、アプリケーションからインフラまで全種類のクラウドサービスを提供する1つの主要クラウドサービスプロバイダーを利用したいと言っている。複数のプロバイダーを利用したいと言っている法人の割合は低い」
Case氏の発言からすると、マイクロソフトの法人向けクラウドにおける差別化戦略は、この調査結果が1つの拠り所になっている。今回の日本市場での強化策も、同社のこのグローバル戦略の一環であることは明らかだ。果たしてこの調査結果が法人ユーザーの本音なのか。精査してみる必要がありそうだ。
日本のデータセンターの模型とともに撮影に応じる米MicrosoftのJohn Caseコーポレートバイスプレジデント(右)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長