連載第4回となった今回は、ワークスタイル変革の推進に適した組織論について述べたいと思う。
連載第3回ではワークスタイル変革は従業員の心理的負担解消から手を付けるべきであると説いた。そして、一口に不満と言ってもさまざまあり、もはや1つの部門の働きだけで成し遂げられるものではなくなってきているとも述べた。
本稿では具体的に社内外の体制をどのように整えるかを具体的に考察していくが、まずはワークスタイル変革を進めようとして組織の壁に当たってしまった例から見ていこう。
現在の組織形態はワークスタイル変革に不向き
広告代理店のA社は、取り引きのあるIT企業B社の提案を受け、モバイルデバイス活用を軸にしたワークスタイル変革を推進しようとしていた。課題だったのはモバイルのIT化であり、特に営業担当が持つ不満はかなり大きかった。
そこでB社はモバイルデバイスとクラウドサービスを組み合わせた新しいシステムを提案し、従業員が場所に縛られずに業務遂行を可能にする道筋を示した。推進の中心人物だったA社のIT部門長はこの提案を気に入り、各方面に調整を始めたが、思わぬ2つの壁が立ちふさがった。
まず総務部門にフリーアドレス化を相談に行ったのだが、フロアのコスト増を理由に難色を示され、さらには携帯電話の料金が大きく上がってしまう課題も指摘された。続いて人事部門から、社員がスマートフォンなどのモバイルデバイスで業務した場合の労務管理について問題があると告げられた。残業の扱いが後で必ず問題になるのでモバイルデバイスの導入は待ってほしいという内容であった。
A社のIT部門長は、モバイルデバイスを使ったこのシステムが大きな成果を上げる確信はあったものの、総務部門と人事部門の壁を崩せなかった。B社には時期尚早であったと断りの連絡を入れ、ワークスタイル変革プロジェクトは早々に座礁してしまったのだ。
この例は実例を元にしたものだが、どの企業でも起き得る典型的な現象である。この例ではIT部門が主人公だったが、別のストーリーではセキュリティを理由に導入を渋る悪役となって現れる場合もある。
つまり、総務部門や人事部門が悪いのではなく、そもそも現在の「IT部門」「総務」「人事」といったよくある組織形態は、ワークスタイル変革に非常に不向きなのだ。
その理由は3点ある。
- 権限がバラバラである
- それぞれ目的とする経営指標が異なる
- 利害関係の調整者がいない
従業員が持つ不満は多面的である。例えば「携帯でメールを確認できない」という不満には、「セキュリティ」や「モバイル端末の維持コスト」「労務管理の問題」とあらゆるテーマが関係する。この問題を解消しようとすると、少なくとも権限の異なる3部門がそれぞれの経営指標に配慮しながら、時間のかかる交渉をしなければならない。
その結果、従業員の期待よりもはるかに「ゆっくり」進まざるを得ないのである。これでは従業員の不満は募るばかりだろう。
ワークスタイル変革を推進する組織の理想型
それではどんな組織であればワークスタイル変革を強力に推し進めることができるのだろうか。実現性は深く考慮せず、まずは理想型を検討してみよう。筆者はワークスタイル変革を推進する組織とは、以下の3つの条件を満たしている必要があると考えている。
- IT・総務・人事の3機能を持つ
- 全社の経営資源(ヒト・モノ・カネ)の配分権限を持つ
- ワークスタイル変革そのものが組織のミッションである
では順に解説していこう。