「コンピューティングの父」A・チューリング氏--人工知能の未来とその限界

Steve Ranger (TechRepublic) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2014-12-05 06:00

 英国の数学者Alan Turing氏が歴史に及ぼした最大の影響を選ぶことは難しい。Turing氏は、自身が「ユニバーサルマシン」と呼んだものを研究したことから、コンピューティングの父として知られている(ユニバーサルマシンはデジタルコンピューティング開発の土台となった)。また、ブレッチリーパークで暗号解読に従事し、第2次世界大戦の終結を大幅に早めることにも貢献した。

 しかし、Turing氏への関心を喚起するのは、歴史的な事柄だけではない。同氏の研究は現在でも、テクノロジ分野の極めて難解な問題、特に人工知能に関する問題において重要な意味を持っている。デジタルコンピューティングの開発に寄与した研究者やエンジニアはほかにも多くいるが、Turing氏が際立った存在となっているのはその影響力の大きさのためだ、とリーズ大学の数理論理学教授であるS. Barry Cooper氏は話す。

 「コンピュテーションに関するアイデアをほかの分野にもたらしていることが、Turing氏に関して非常に重要なことだ。同氏はこうしたものを結びつけ、コンピュテーションが多種多様なコンテキストでどのように機能するのか、ということを全体的な視点で見ていた」(Cooper氏)

 現在利用されているデジタルコンピューティングの開発は、Turing氏の考えの一要素にすぎなかった。同氏の理論を物理的なコンピュータ(ガラスバルブを含む巨大な機械)に変える方法についてエンジニアたちが頭を悩ませていた間も、Turing氏は既にもっと難解な問題に取り組んでいたからであり、ブレッチリーでの研究によって同氏の視野が広がった可能性がある、とTuring氏に関する書籍を共同執筆したCooper氏は述べた。

 「同氏はある意味で純粋な数学の世界に生きていたが、ブレッチリーパークで働くようになったことで、現実世界の問題に関わらざるを得なくなった。現実世界を経験した晩年の研究は、主に人間の思考の性質や自然界でのパターン形成などが対象となった」(Cooper氏)

 中でも人工知能に関する研究が現在も重要な意味を持ち、議論を呼んでいる。

 Turing氏は1950年の論文「Computing Machinery and Intelligence」(計算する機械と知性)の中で次のように書いている。「20世紀末には、使われる言葉や、教育を受けた人たちの一般的な意見が今とは大きく変わり、機械の思考について反論を恐れず話せるようになるだろう。さらに、こうした信念を隠すことによって達成される有益な目的など1つもない、と私は考える」

 Turing氏の予測は正しくなかったが、「Siri」にしても「Watson」にしても、人工知能の出現は今も注目度の高い研究分野である。よく知られているように、Turing氏はこの論文で「The Imitation Game」(模倣ゲーム)(Turing氏を描いた新作映画のタイトルでもある)の概要を説明し、機械の知性をテストする手段になり得ると主張した。現在ではチューリングテストとしてよく知られている。さまざまなバリエーションがあるが、基本的なコンセプトは、自らの知性を人間に信じ込ませることのできる機械は思考する機械と見なすべきだ、というものである。

ブレッチリーパークにあるAlan Turing氏の像。
ブレッチリーパークにあるAlan Turing氏の像。
提供:画像提供:Jon Callas/Wikimedia Commons

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