最近、飛行機事故を耳にすることが多い。もちろん、これも海外出張に行きたくなくなる一因である。でも、それだけではない。
最近の航空産業のイノベーション、特にコスト効率を目指すイノベーションの方向性は、われわれのフライト体験をさらに悪化させるのではないかと思わせるのだ。要は、ただでさえ辛いエコノミーシートがさらに辛くなりそうなのだ。こと、長距離フライトに関しては。
なんだこれは
まずはこちらの記事。Airbusは、A380のエコノミークラスの1列あたりの座席数を10席から11席へ増やせるようにするという。
A380と言えば、あの総2階建ての世界最大の旅客機だ。せっかく大きな機体であるにもかかわらず、従来の3-4-3から1シート増やし、3-5-3にできるようにする。
記事によれば、A380は昨年度に1機も売れておらず、即効性のある対策として搭載可能席数を増やし、コスト効率を高める必要があるらしい。これによって、どのくらいコスト効率が高まるか分からないが、座席が中央になる確率は40%から45%に増加し、シート幅がさらに狭くなることとなることは確かである。
しかし、状況はさらに悪化する可能性がある。もしも、申請された特許が未来を示唆するならば、われわれにはもっと暗澹たる未来が待ち受けている。
下の図は、Airbusが2014年6月に申請した自転車のサドル型シートの特許である。乗るときに前習えまでする必要はないかもしれないが、前の人との距離は「小さく習え」であるようだ。
これはかなり辛そうだが、Boeingが今年3月に申請した特許が組み合わされば大丈夫かもしれない。ビデオを見てもらうと分かりやすい。これは、直立した状態でもよく眠れる睡眠サポートシステムである。が、やっぱ無理ありありな感じだ。
航空産業の競争戦略
航空産業は、ビジネススクール的には題材の宝庫である。巨額の投資はファイナンス、ディスカウントエアラインとの競合はビジネスモデル、座席の価格決定はプライシング、マイレージによる囲い込みはロイヤルティマーケティングなど、BtoBからBtoCまでさまざまな素材が満ち溢れている。
しかし、カスタマーエクスペリエンスの題材として航空産業は適していない。先ほどのような特許が出願されているのを見るにつけ、航空産業のイノベーションは、今もカスタマーエクスペリエンスよりもオペレーションの効率化を重視しているように思われる。今や金融サービスですら顧客を向いたイノベーションへ舵を切りつつある時代である。
これまで航空業界は、既存の航空会社とディスカウントエアラインという構図でとらえられることが多かった。しかし、先ほどの特許などを見るにつけ、今の航空産業には、ディスカウントエアラインとは異なる指向の破壊者が求められているような気がしてならない。
しかし、これ以上にフライトに伴うエクスペリエンスが悪化するならば、移動せずともことを済ませられるコミュニケーションテクノロジにもっともっと投資すべきなのだろう。つまり、本当の競合は別の産業であるのかもしれない。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。