小売業界の破壊と変革

アクセンチュアが示す、小売業に必要な6つの変革ベクトル - (page 3)

江川恭太(アクセンチュア)

2015-06-16 07:00

 サイズが合わなかったとしても新たに選択すればまた新しい商品が自動で送られてくるため、簡単かつ効率的に商品を試すことができる。また、店内にある端末を使えば簡単に決済もでき、レジに並ばずに商品を持ち帰ることもできる。

 以上に述べたシームレスリテイリングの6つの鍵は、顧客の視点で考えればどれも実現されて当然のことのように見えるだろう。しかしながら、これらをすべて高いレベルで実現することは容易ではない。

 アクセンチュアは現状を把握するため、日本を含めた8カ国の消費者(6000人)および小売業(60社)に対して13年に調査を実施したが、消費者の要望と小売業のサービス実現状況に大きなギャップがあることが明らかになった。

 特に「(2)統合された情報の提供」、および「(3)一貫性のある品ぞろえと価格の実現」について消費者の要望とは裏腹に実現ができていない小売業が多いことが判明した。


 こうした状況の背景にあるのは、企業が取り組みしやすい領域から着手していることにあると考えられる。「(1)一貫性のある購買体験の提供」は各チャネルにおけるブランドや雰囲気の統一という比較的取組みが進みやすい。

 また「(5)個別にカスタマイズされたプロモーション」は購買実績に基づいた個別クーポンやプロモーションなど、既存のマーケティング機能の延長・強化として取り組みやすいといった側面があるのではないだろうか。

 一方で、今回の調査で明らかになった課題である「(2)統合された情報の提供」や「(3)一貫性のある品ぞろえや価格、売り場の実現」のためには、各チャネルの在庫情報や顧客情報などをリアルタイムで統合する必要があり、システム投資が必要となる可能性がある。

 また、組織構造がチャネル別に分断されている場合も多く、その場合は意思決定プロセス含めて変革が必要となる。「(4)配送や返品、決済での柔軟なオプションの提供」のためには既存の物流ネットワークの見直しはもとより、リードタイムなどサービスレベルを向上させるために、より上流の物流ネットワークの再編など、これまでの小売業の事業領域を拡大した取り組みが必要となるケースもある。

 もちろん、こうした取り組みやすい領域から始めるということは決して悪いことではないが、消費者の期待を越えていくためにはこれまでのやり方を大きく変革してでも取り組みを加速する覚悟も必要となろう。

 「何を顧客に実現したいか」ということを、起点に目指すべき方向性及び機能獲得方針を検討していくべきである。既存の機能を強化するだけではなく、全く存在しなかった機能の構築、これまで外部に任せていたような機能の構築やコントロールを展開していかなければならない。

 以上、デジタリゼーションの時代を生き残るために顧客へ提供すべき価値と、企業の実現状況のギャップについて見てきた。次回は、変革のために必要なステップやチャレンジについて見ていきたい。

アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー 江川恭太
2006年アクセンチュア株式会社入社。戦略コンサルティング本部に所属し、小売業、消費財メーカーなど製造・流通業のクライアントに対し、事業戦略、新規事業戦略、営業改革、SCM改革を中心としたコンサルティングに従事。

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