Jim Whitehurst氏は、改宗者のような熱心さで情熱を込めて執筆している。Whitehurst氏の話は、同氏がRed HatのCEOとしての面接を受けるよう言われた日のことから始まっている。Red Hatといえばオープンソース分野のリーダー的企業だが、Whitehurst氏が会った3人は皆キャッシュを持っておらず、彼がコーヒー代やランチ代を出したり、空港までのガソリン代を支払う羽目になった。Whitehurst氏は「冗談だろう?」と思ったそうだ。
The Open Organization: Igniting Passion and Performance ● 著者:Jim Whitehurst ● 出版社:Harvard Business Review Press ● 227ページ ● ISBN: 978-1-62527-527-1 ● 30ドル
Whitehurst氏がそう思ったのも無理はない。同氏の前職は厳格な階層的企業Delta Air LinesのCOOで、同社の改善を主導した人物なのだ。Whitehurst氏はDeltaで1万人もの従業員を解雇する必要に迫られた過去があり、その経験から未来を作るというビジョンを持つ成長中の企業に関心を示したのである。
Whitehurst氏は、著書「The Open Organization: Igniting Passion and Performance」(「オープンな組織:情熱とパフォーマンスを奮い立たせよ」の意)の中で、DeltaとRed Hatほど異なる企業はないと述べている。Deltaは伝統的なトップダウンの企業で、数字や規則に縛られている。一方のRed Hatは情熱で運営されており、目的意識はボトムアップで上層部に伝わる企業だという。多くのビジネス書は、コンサルタントが一語のコンセプトを押し出すように書かれているが、Whitehurst氏の同書はRed HatのCEOとして、同社を見習いたいと考えている経営者に向けて書かれている。
特に面白いのは同書の前半部分だ。Whitehurst氏はRed Hatにて、最初はカオスとしか思えなかった状況に立ち向かい、自分はRed Hatを「成長させる」ために来たという考えを捨てる必要があった。Deltaでは、調査レポートを提出するよう指示すると調査レポートが出てきたが、Red Hatでは同様の指示に対し、数日後「あまりいい考えじゃないと思ったんでやめたよ」と笑顔で返答されることに驚いたという。
Whitehurst氏はまた、いかに人を元気づけモチベーションを向上させるか、いかに情熱を持って事業への関与を高めるか、いかに良い決断につながるための役目を果たせるかについて解説。その中で同氏は、ZapposやStarbucks、Whole Foodsといった企業が同様の手法を取り入れた例も挙げている。
ほとんどは常識の範囲内
書かれている内容のほとんどは常識のようなものだ。従業員は、自分の意見をよく聞き入れてもらえると実感できれば事業により関与したいと感じるものだし、異なる意見を受け入れ最良のアイデアを採用するリーダーに敬意を払うものだ。また、仕事に対して情熱的になることを受け入れる企業では、生産性も高くなる(とはいえ、同書はRed Hatの従業員がCEOの考えにコメントや注釈をつけることのできる従業員Wikiを設けるべきだと思うが)。
こうしたアイデアはすでに実績もあるが、私には疑問がある。自分の務めている企業が世界を変えると考えている給与の良い従業員は、意欲の高い目標意識を持ちやすい。彼らには自身のミッションがあり、だからこそRed HatやWhole Foods、Zappos、Pixarなど、Whitehurst氏が言うような自ら新たな未開地を切り開こうとする企業で働いている。
だが、ボールベアリングを生産する企業で同様の情熱や目標を持つにはどうすればよいのだろうか。同書に書かれているアイデアが、Deltaの業績が悪化する前に適用されていたら、同社は異なる道を辿ったのだろうか。また、デジタル写真が普及して苦境に陥ったEastman Kodakを救うことはできただろうか。あまり良い状態でない環境で、Whitehurst氏がRed Hatの手法をどう生かすのかも見てみたいものだ。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。