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小売業界の破壊と変革

オムニチャネル成功のカギは物流イノベーション--ユニクロやトイザらスが展開 - (page 3)

江川恭太(アクセンチュア)

2015-09-08 07:00

3.店舗の役割の見直し

 第1回目でも確認した通り、シームレスな消費者体験において実店舗は引き続き重要な役割を果たしていく。アクセンチュアの調査でも89%の消費者が、実店舗が最も買い物のしやすいチャネルであると答えている。

 これまでの実店舗は、主に販売拠点としての役割を果たしてきたが、今後はその役割が多様化していく。販売拠点としての役割だけではなく、物流拠点としての役割、情報収集拠点としての役割も求められるようになる。

・陥りがちな罠

 役割が多様化しているにも関わらず、店舗のオペレーションはほとんど変えず、店舗の事は現場任せにしているケースが多い。本社から指示が伝達されるものの、店員に多くを求めすぎている、もしくはいたずらに業務効率化を推奨している可能性がある。国内の労働人口が縮小し、有用な人材が限られている中で、いかに現場をサポートする仕組みを構築するか、やるべきこととやらなくてもいいことを見極めるかが必要となる。

・成功の要諦

 ここでの要点は、人材の役割分担の明確化と最新技術の活用の2つだ。店舗の役割の多様化に伴い、店員に求められるスキルも変わってくる。顧客体験を提供・創出するための洗練されたスキルが必要となる場合もあるが、全ての人材がそのようなスキルを有しているわけではない。

 また店舗をフルフィルメントセンター(物流センター)として活用する場合は、ピッキングやパッキングなど、いわゆる販売とは別のスキルが求められることとなる。多能工型とするのか分業型とするのか、業務の難易度と効率性に応じた判断が必要となるが、いずれにせよ求められるスキルの再定義が肝心だ。それに応じて採用・教育・人材配置を見直す必要がある。

 また、店舗を新たな情報収集拠点として捉えなおし、POSだけではわからなかった情報を収集することも求められるようになる。昨今飛躍的に進歩した画像・音声解析技術、センサ技術を活用すれば、今まで捉えることのできなかった売場・現場のリアルな状況を把握することができる。それによって売場改善・オペレーション向上を促進することも可能だ。

 例えば、米アパレル企業「American Apparel」では、カメラ映像を分析することで、店内を移動する顧客を追跡。顧客が頻繁に通過/滞留する導線をヒートマップ化し分析することで、注力商品の配置や店内レイアウトの改善に活用している。また、某小売業では、棚の陳列状況や顧客の動きをカメラ映像とセンサでとらえ、解析することで、店内のオペレーション改善にもつなげている。

4.サプライチェーンモデルの再設計

 オペレーティングモデルの構築における最後のポイントはサプライチェーンモデルについてである。顧客へより迅速に、かつ低コストで商品を提供することの必要性は論を待たない。リアルタイムでの在庫情報の可視化や、配送リードタイムの短期化など、求められるサービスレベルは高くなってきている。特にオンライン発注商品の同日配送を実現しようとしている企業は多いが、ハードルは非常に高い。

・陥りがちな罠

 ここでの罠は、既存の物流ネットワークや機能配置に固執したアプローチである。これまで自前で物流を構築してきた企業はその物流機能を前提とし、逆に物流会社に依存してきた企業は引き続きそのスキームを前提としてサプライチェーンモデルの構築を考えがちである。

 目指すサービスレベルが高まっていることもあるため、ほとんどの企業は単独での実現が困難である。当然、物流会社に丸投げしているだけでは差別化できるレベルには至らない。

・成功の要諦

 物流会社など補完的な機能を持つ企業と戦略的なパートナリングモデルを構築し、連携して新たな物流ネットワークを見直していくことが近道となりうる。単なる丸投げではなく、顧客への提供価値を高めるためのデータの持ち方、オペレーションの組み方など、協働によるスキームの検討が重要だ。

 目指すサービスレベルが高まる中、実現するためにコストとのトレードオフが求められる場面も多く出てくる。一律に高いサービスレベルを目指すのではなく、協働を検討する中で柔軟に判断していくことが必要だ。

 例えば、ファーストリテイリングではアクセンチュアとの協業体制で実店舗とデジタル店舗の境なく、いつでもどこでも消費者が商品を選択したり、試着したり、購入したり、受け取ることのできる全く新しい買い物体験を実現するための取り組みを推進している。こうした中、同社はイノベーションを支える物流の重要性を高く認識しており、大和ハウス工業との協業も進め、自前で新たな物流スキーム構築に踏み込んでいる。

 また小売業の物流に特化したビジネスモデルも出てきている。ShopRunnerは米国で配送サービスを展開する企業で、同サービスに加盟しているトイザらスやTOMMY HILFIGERなど自社サイトを運営する小売企業に対し、送料無料で2日以内に消費者に商品を届けるというサービスを提供している。

 消費者は年会費を払えば、どれだけ買い物をしても送料は無料となるのだ。近年、中国でもAlibabaと提携し、サービスを展開する計画を発表した。参入が難しい中国において消費者に商品を届ける有力な手段となりうる。

 以上、変革のためのステップと成功の要諦のうち、「1.十分な顧客理解に基づいた方針策定」と「2.オペレーティングモデルの構築」について見てきた。次回は、IT基盤の構築でのステップと成功の要諦について見ていきたい。

アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー 江川恭太
2006年アクセンチュア株式会社入社。戦略コンサルティング本部に所属し、小売業、消費財メーカーなど製造・流通業のクライアントに対し、事業戦略、新規事業戦略、営業改革、SCM改革を中心としたコンサルティングに従事。

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