小売業界の破壊と変革

オムニチャネル成功のカギは物流イノベーション--ユニクロやトイザらスが展開

江川恭太(アクセンチュア) 2015年09月08日 07時00分

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 前回は小売業のデジタリゼーションの方向性について、シームレスリテイリング(Seamless Retailing)という概念のもと、6つの価値を紹介した。「1. 一貫性のある購買体験の提供」、「2. 統合された情報の提供」、「3. 一貫性のある品揃え・価格・売り場の実現」、「4. 配送・返品・決済での柔軟なオプションの提供」、「5. 個別にカスタマイズされたプロモーション」、「6. 絶えざるカイゼンの追及」である。

 特に、2と3については顧客の要望とは裏腹に小売業の実現度合が低く、その理由としては小売業が取り組みやすい領域を優先してしまっていることを確認した。今回は、そういった状況を打破していくべく、変革のためのステップと成功の要諦について、よく陥りがちな罠と共に見ていきたい。

 アクセンチュアでは、変革のステップを大きく3つ定義している。「1.十分な顧客理解に基づいた方針策定」と「2.オペレーティングモデルの構築」、「3.ITプラットフォームの構築」である。顧客基点で方針を策定した上で、それを実現するためのオペレーティングモデルとIT基盤を見直すという考え方である。今回はまず1と2について紹介する(3については次回で紹介する)。

(1)十分な顧客理解に基づいた方針策定

 顧客が何を望んでいるのか、自社の課題がどこにあってどこでチャンスを逃してしまっているのかについて、十分な理解をした上で方針を策定する必要がある。一方で、連載の初回で紹介したとおり、デジタリゼーションによって顧客の選択肢は多様化し、購買までのプロセスも線形的な態度変容ではなくなってきている。

 顧客ごとにそのプロセスは異なる上、同一人物であっても常に同じようなプロセスを経るとも限らない。企業にとって潜在的な顧客がどこにいるのか、どこで顧客接点の機会を損失してしまっているのかについて、把握することの複雑性は増している。

陥りがちな罠

 複雑性は増しているものの、デジタリゼーションによって顧客へのリーチがしやすくなっていることも事実である。チラシやダイレクトメール(DM)に頼らなくても、低コストで顧客とダイレクトにコミュニケーションができる。ただし、ここには罠が潜んでいる。

 十分に顧客を理解していないままに、必要以上に顧客へのリーチを繰り返すことだ。これは一時的には顧客の購買を促すこともあるだろうが、逆効果を生むこともある。特にSNSなどのオープンコンテンツでは注意が必要だ。

 アクセンチュアの調査では、SNSは友人や家族とつながることを目的としているため、企業に対しては、自分にとって真に有益な情報を提供してくれるケースのみ、つながっていたいという顧客が多いことが明らかになっている。有益でない情報を必要のないタイミングで顧客に提供し続けると、せっかく築くことのできた関係が拒否され、コミュニケーションが途絶えてしまう可能性もある。

 特に、近年、日本の消費者は自らの個人的な情報を企業に提供することに否定的になりつつあるということがアクセンチュアの調査で分かっている。例えば、個別体験を提供してくれるのであれば自らの情報提供に抵抗を感じないと答えた消費者は、2014年には44%であったが、2015年には23%までに減少している。

・成功の要諦

 重要なことは小売業がまず顧客理解に努めることだ。データがないこと、整理されていないことを言い訳としてはならない。データが限られていても注意深く顧客の声を聞き、どのような行動をとっているのか、どのような体験を望んでいるのかを理解し、その上での自社の課題や至らない点を見極めることが必要だ。

 さらに全体の傾向だけではなく、顧客がどのようなプロセスを得ているのか、つまり個人の動きに着目することが重要となる。特にチャネルのつなぎ目には十分な注意を払うべきだ。購買の意思決定は、実際の購買チャネルとは異なるところで行われていることが多くなっている。

 アクセンチュアの2013年のグローバルでの調査(Seamless Consumer Retail Research)によると80%の消費者がShowroomed(店で確認してウェブで購入)を、85%がWebroomed(ウェブで確認して店で購入)を行っていることがわかっている。

 顧客理解の取り組みとして、例えば、無印良品では「MUJI passport」というスマホアプリでポイントプログラムを導入し、リアルとデジタルの様々なデータを紐づかせながら顧客の行動を分析している。同アプリでは、買い物の他、店舗周辺でのチェックインや口コミの投稿でマイルが貯まるようになっており、商品の在庫検索も可能となっている。

 企業としては、各顧客がどのような商品をアプリ上で検索したのか、いつどのような店舗に来店し、どのような商品をどのチャネルで購入したのか、その感想はどのようなものであったのかといった行動データを蓄積、分析できるのだ。

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