(2)オペレーティングモデルの構築
顧客に対して一貫性のある体験、価値を提供するためにはオペレーティングモデルも同様に一貫性のあるものでなくてはならない。戦略・方針を迅速かつ確実に実行するためのオペレーティングモデルの構築が重要となる。ここではオペレーティングモデルの考え方を大きく4つに分けて説明したい。
1.顧客体験を起点とした機能統合
シームレスリテイリングの6つの価値でも確認した通り、顧客にとっては、品ぞろえや価格、プロモーションと同様に、いかに魅力的な顧客体験を受けられるかということが大きな差別化要素となりうる。ただし、新しい顧客体験だけを追求すればいいわけではない。重要なのは、既存のマーチャンダイジングの要素(品ぞろえ、価格、プロモーション)を含めて、顧客への提供価値を最大にすることである。
・陥りがちな罠
ここでの陥りがちな罠は、顧客について分析する機能(顧客分析部)を独立したチームとして設けることである。上述した通り、提供価値という意味でマーチャンダイジングと顧客体験は統合している必要がある。
顧客分析部というような独立したチームを設けるとせっかくの分析から得られた示唆が宙に浮いてしまい、活用されなくなってしまうことがある。顧客分析の実行までに時間がかかったたり、マーチャンダイジングに全く反映がされなかったりするという結果も想定される。
・成功の要諦
そのため、顧客の示唆がマーチャンダイジングにうまく組み込まれるような組織・チーム作りが不可欠となる。「顧客分析を行う機能をマーケティング組織に持たせ、マーチャンダイジングとの連携をとっていくパターン」「顧客分析チームをマーチャンダイジングチームの中に組み込むパターン」「各マーチャンダイジングのチームの中に少数の顧客分析担当を設置するマトリクス組織のパターン」など、いくつかのパターンが想定される。
各企業の風土・文化に合わせ最適なパターンを選択すべきだが、パワーバランスにも留意しなければならない。顧客分析チームの示唆が宙に浮いた形で終わらないよう、ある程度の責任と権限を持たせる工夫が必要となる。
2.チャネル横断での組織・KPI設計
シームレスであることの重要性はこれまでも述べてきた通りであるが、マーケティング機能、マーチャンダイジング機能、サプライチェーンモデルがチャネルごとに分断されている小売業は依然として多い。まだ実店舗の売り上げ割合が圧倒的である企業も多く、なかなか真の意味でのマーチャンダイジングと顧客体験の統合に踏み切れていないことが想定される。
・陥りがちな罠
ただし、チャネルごとの組織の分断に伴う事業責任、収益責任の分断は縮小均衡を招く恐れがある。上述した通り、顧客が意思を決定する場所と購買の場所は必ずしも一致していない。特定チャネルの売り上げが限定的だからと言って投資を抑制していると、他のチャネルの成長も阻害することにつながりかねない。
・成功の要諦
こうしたリスクを避けるために、チャネル別の売り上げを最大化するのではなく、顧客のウォレットシェア(顧客1人が当該カテゴリにおいて消費する金額のうち、自社製品がどの程度占めているかの指標)を最大化することを目的とした組織作りとKPI設計をすることが重要となる。
既存の責任・権限の変更も伴うため、変革には強いリーダーシップが求められる。例えば“チーフ・シームレス・オフィサー”のような役職を設置し、変革をリードさせていくパターンや、既存のCXO(COOやCIOなど)がチームを組んで協力しながら変革をリードしていくパターンなど、ここでもいくつかのパターンが考えられる。
正解があるわけではないが、それぞれ自社に最適なパターンを検討していくことが重要だ。例えば、米国の百貨店Macy’sでは、顧客の行動に基づいた最適なオペレーションを構築することを目的に、Chief Omnichannel Officerを設置し、既存店とオンラインの統合に責任を持たせている。また、Appleも既にチャネル別の収益責任を統合した運営をおこなっている。