ハイブリッドクラウドをユーザーはどう解釈し、システムをつくるべきなのか――TechRepublic JapanとZDNet Japanの呼びかけに、ハイブリッドクラウドに関わる5社のベンダーの方々を集まった座談会記事の2回目。1回目はこちら。
メンバーは日本IBMクラウドマイスターの紫関昭光氏、ヴイエムウェアでハイブリッドクラウドの指揮を執る巨勢泰宏氏、NTTコミュニケーションズのクラウドエバンジェリスト 林雅之氏、日本オラクルでクラウド技術に関する製品戦略を統括する佐藤裕之氏、日本マイクロソフトでモビリティとクラウド技術部の部長を務める各務茂雄氏(当時)の5人。
採用理由はコスト削減ではない
ZDNet ハイブリッドクラウドを導入する契機についての調査資料があります。実際に、顧客と話をする中で、どんなことが導入のトリガーになっているでしょうか。
ハイブリッドクラウドの導入の契機についての質問。 ハイブリッドクラウドへのマイグレーションが進む契機となっているのが、セキュリティが35%と最も高く、情報システム部門の管理のしやすさが19%、パフォーマンスが17% 出所:451 Research Hosting and Cloud Study 2015(資料協力 NTTコミュニケーションズ)
IBM 紫関氏 従来、ハイブリッドクラウドを導入する最も大きな契機はコスト削減だったと思います。しかし最近、新しいものを早く作りたいというニーズが増えているように感じます。かつてのIaaSによるオンプレミス、オフプレミスだけの世界は、同じものがクラウドに移行したときに、どれだけコストが低くなるかという単純な話だったんです。でも、コスト削減は経営や事業部門(LOB)からしてみると最も重要なことではありません。顧客の満足度を上げていくとか、会社全体の売上高を上げることこそがやっぱり大事なのです。
IBM クラウド事業統括 理事 IBMクラウドマイスター 紫関昭光氏 クラウドコンピューティング全般、特にオープンクラウドテクノロジが得意分野
“System of Record(SoR)”や“System of Engagement(SoE)”の話は、今までできなかったことができるようになるかもしれないという可能性の話です。それなので、やってみないとわからない、成功する保証はない。だから、スタートアップに近いシステムが必要ということにもなってきます。アプリケーションが本当にユーザーの心をつかんで拡大していくのか。(コモディティ化が進み)その段階に来ていると思います。それを後押しするのはモバイルアプリです。スマートフォンなどモバイル端末は常にユーザーと一緒にいますから、たまに行く店舗やサービスのスタッフよりもユーザーの心をつかみやすい。
しかし、新しいものを作るときには成功の方程式がないため、試行錯誤を繰り返すことになります。それができるクラウドを提供できることが重要です。さらに言えば、クラウドはあくまでもツールです。そのツール上で優れたSoEのアプリケーションを、一緒に作ってくれるプロのパートナーを企業は求め始めているのです。
NTT Com 林氏 ちゃんとしたガバナンスが適用できるかということも、契機になると思います。セキュリティはもちろんですが、導入後の運用管理がうまくできるかどうかですね。すぐにハイブリッドクラウドにしていいのか、他のクラウドとどうつなげるといいか、情シス部門にメリットがあるかなど、求められることは多いと思います。
日本オラクル クラウド・テクノロジー事業統括 クラウド・テクノロジー製品戦略統括本部 Cloud/Big Data/DISプロダクトマーケティング部 部長 佐藤裕之氏クラウド、ビックデータなどのビジネス開発・マーケティングを担当し、新たなIT基盤を普及すべく日本市場の開拓に従事、以前はエンジ ニア部門長として顧客への導入技術支援に従事
オラクル 佐藤氏 クラウドを導入する契機となるものはたくさんあって、われわれの中では綺麗に整理できていない状況です。例えば、人材管理システム(HCM)やデータ分析など、大量のSaaSのモジュールを持っており、顧客はその中から気に入ったモジュールを使うことで、だんだんクラウドに入っていくという感じです。サービスを使いたいからクラウドに入っていくわけです。
PaaSのレイヤで言えば、IoTやビッグデータ、モバイルなどトランザクションの増減が読みづらいものについては、固定資産を持たずに、多少の課金で見えるようになるクラウドは企業にとって魅力的に映ると思います。mBaaS(mobile Backend as a Service)やテレマティクスなどの需要にはクラウドが適しています。それぞれの領域、それぞれの事象で、お話しをいただいているというのが現実です。