P2Pレンディング:破壊的イノベーションにおけるベンチャーの優位性
Fintechの世界でも、この数年間もっとも存在感を高めた領域として、P2Pレンディングがある。P2Pレンディングとは、お金の借り手と貸し手をオンライン上でマッチングするビジネスモデルであり、その中でも、上場まで至った企業としてはLending Club(2006年創業、2014年12月上場)がある。
同社を含むP2Pレンダーでは、融資審査が極力自動化、簡略化されており、その分、店舗網や行員、専門家による審査に伴うコストを中抜きし、その分だけ安い貸出金利や、高い預金(正確には社債の利回り)を提供できるビジネスとなっている。
(出所)Lending Club提出目論見書より筆者訳
Lending Clubを事例に取ると、同社で貸付を受けたいユーザーは、住所や年収情報などを打ち込むだけで、初期審査を数秒で完了することが可能となっている。その後、クレジットレポートの照会により、数日の審査を経て融資判断と、貸出金利が決定され、サイト上で貸し手(投資家)にも、投資銘柄として購入可能な状態となる。
そして、Lending Clubはローン組成額の1~5%をプラットフォームの手数料として受け取り、借り手はそれまで銀行から平均21.8%の金利で資金を借りていたところを、借入金利が平均で14.8%まで低下するモデルを実現している。
この仕組みは、インターネットの力によって、既存の銀行による融資モデル(いわゆる間接金融)を、直接金融に代替するものである。
従来、直接金融における貸付(社債やCPの発行)は、財務や事業の健全性を立証できる大企業のものであり、間接金融は、専門家が融資の審査を担い、かつその元資(預金)を集めてできることがその強みとしてあったが、前者の審査についてはビッグデータを使った分析が、後者の資金プール力についてはインターネットの力で解決したことで、両方の制度的な存在意義が薄れてきたことがその背景にある。
もちろん、人を介した融資審査を通じて、細かな事情への配慮を行ったり、返済期限の相談等が可能できるプラスの側面もあるが、多くのユーザー(借り手)が「低利で融資を受けられれば良い」というニーズを抱えていた中で、その要望に応えたという意味では「破壊的イノベーション」の性質を持つものといえる。
インターネットが登場したころから言われてきたことではあるが、このように破壊的イノベーションは、既存プレーヤー(このケースでは銀行)には展開しにくい事業であった。
このようなプレーヤーに対して、昨今は貸し手として機関投資家も直接名乗りを上げるようになったことから、P2Pレンディングが大規模化しているトレンドがある。Lending Clubにおける貸付は、この流れに乗って大きく拡大し、ベンチャーキャピタルなどから500億円を超える上場前の資金を調達をしながら、一気に拡大した。その結果、「ベンチャー領域」という立場から、融資市場における「セクター」という規模への成長を成し遂げている。
この一連の展開は、ものの数年間の間で達成された。既存ビジネスとの調整が不要な破壊的イノベーションに基づくプレーヤーが、ベンチャーキャピタルからの大規模な資金調達により、一挙に拡大したモデルといえる。
後編ではマネーフォワードのモデルを考える。