Fintechの正体

Fintechのベンチャー(前編)--破壊的イノベーションにおける優位性 - (page 2)

瀧 俊雄 2015年10月08日 07時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

P2Pレンディング:破壊的イノベーションにおけるベンチャーの優位性

 Fintechの世界でも、この数年間もっとも存在感を高めた領域として、P2Pレンディングがある。P2Pレンディングとは、お金の借り手と貸し手をオンライン上でマッチングするビジネスモデルであり、その中でも、上場まで至った企業としてはLending Club(2006年創業、2014年12月上場)がある。

 同社を含むP2Pレンダーでは、融資審査が極力自動化、簡略化されており、その分、店舗網や行員、専門家による審査に伴うコストを中抜きし、その分だけ安い貸出金利や、高い預金(正確には社債の利回り)を提供できるビジネスとなっている。


(出所)Lending Club提出目論見書より筆者訳

 Lending Clubを事例に取ると、同社で貸付を受けたいユーザーは、住所や年収情報などを打ち込むだけで、初期審査を数秒で完了することが可能となっている。その後、クレジットレポートの照会により、数日の審査を経て融資判断と、貸出金利が決定され、サイト上で貸し手(投資家)にも、投資銘柄として購入可能な状態となる。

 そして、Lending Clubはローン組成額の1~5%をプラットフォームの手数料として受け取り、借り手はそれまで銀行から平均21.8%の金利で資金を借りていたところを、借入金利が平均で14.8%まで低下するモデルを実現している。

 この仕組みは、インターネットの力によって、既存の銀行による融資モデル(いわゆる間接金融)を、直接金融に代替するものである。

 従来、直接金融における貸付(社債やCPの発行)は、財務や事業の健全性を立証できる大企業のものであり、間接金融は、専門家が融資の審査を担い、かつその元資(預金)を集めてできることがその強みとしてあったが、前者の審査についてはビッグデータを使った分析が、後者の資金プール力についてはインターネットの力で解決したことで、両方の制度的な存在意義が薄れてきたことがその背景にある。

 もちろん、人を介した融資審査を通じて、細かな事情への配慮を行ったり、返済期限の相談等が可能できるプラスの側面もあるが、多くのユーザー(借り手)が「低利で融資を受けられれば良い」というニーズを抱えていた中で、その要望に応えたという意味では「破壊的イノベーション」の性質を持つものといえる。

 インターネットが登場したころから言われてきたことではあるが、このように破壊的イノベーションは、既存プレーヤー(このケースでは銀行)には展開しにくい事業であった。

 このようなプレーヤーに対して、昨今は貸し手として機関投資家も直接名乗りを上げるようになったことから、P2Pレンディングが大規模化しているトレンドがある。Lending Clubにおける貸付は、この流れに乗って大きく拡大し、ベンチャーキャピタルなどから500億円を超える上場前の資金を調達をしながら、一気に拡大した。その結果、「ベンチャー領域」という立場から、融資市場における「セクター」という規模への成長を成し遂げている。

 この一連の展開は、ものの数年間の間で達成された。既存ビジネスとの調整が不要な破壊的イノベーションに基づくプレーヤーが、ベンチャーキャピタルからの大規模な資金調達により、一挙に拡大したモデルといえる。

 後編ではマネーフォワードのモデルを考える。

瀧 俊雄
取締役 兼 Fintech研究所長
1981年東京都生まれ。 慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年よりマネーフォワードの設立に参画。自動家計簿サービスアプリ「マネーフォワード」と、会計や給与計算、請求書発行などのバックオフィス業務向けアプリ「MFクラウド」シリーズを展開している。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SpecialPR

連載

CIO
月刊 Windows 10移行の心・技・体
ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
セキュリティインシデント対応の現場
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft Inspire
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]