「Fintech」とは何か。金融と革新的なテクノロジの組み合わせだと説明されることが多いが、もともと金融サービスとはテクノロジドリブンであり、その文脈で敢えてFintechという言葉を定義する意味はない。
では、Fintechとは何なのか? それを決めるのは、そのサービスが利用者目線で作られたものかどうかである。どんなに革新的なテクノロジを活用していようとも、それが提供者の目線で作られたものであれば、それはFintechではない。
家計簿ソフトの事業規模
Fintech関連サービスの中でも、オンライン家計簿サービスは最も注目を集めてきた分野の一つである。金融機関がアカウントアグリゲーションの提供に対し消極的になる中、それを積極的に拡張し、家計管理の自動化を究極まで推し進めてきたオンライン家計簿サービスは、家計簿の概念を変えたと言ってもいいだろう。
オンライン家計簿サービスのZaimのユーザー数は400万人、そしてマネーフォワードは200万人である。ちなみに、総務省の調査によると、2014年10月時点で日本で人口が400万人を超えているのは9都道府県、200万人を超えているのは17都道府県に過ぎない。8月23日にも、マネーフォワードと金融機関の提携に関する話が日経新聞に掲載されたが(マネーフォワードは、正式に発表されたものではないとしている)、こうした利用者目線で開発されたサービスとの提携は、金融機関にとって非常に魅力的であるに違いない。
資産から負債へ
ところで、オンライン家計簿はユーザーの資産にフォーカスを当てたサービスである。アグリゲーションで自動的に集めてくるのは金融機関に預けてある資産の情報であり、その中でも主要な資産科目であるキャッシュの増減を家計簿の明細で管理できるのが特徴である。逆に言うと、負債サイドである借り入れを積極的に管理しようというものではない。
そこへ、住宅ローンの借り換えを支援する「モゲチェック」なるサービスが登場した。資産サイドのサービスの充実振りを考えると、ある意味自然なことなのかもしれないが、個人にとって最も大きな負債である住宅ローンについて、その見直しを支援するサービスである。
住宅ローンは、プライシングが非常に分かりにくく、利用者は本当に有利な条件で借り入れを行っているのかが判断できない。なぜなら、住宅ローンには、金利だけではなく、保障料、事務手数料、保険料などいろいろな付帯費用が発生し、その課金の仕方が金融機関によって異なるからである。MFSが提供するモバイルアプリであるモゲチェックは、それらをすべて勘案した上で、全国120行の提供する住宅ローンの中から、どれに借り替えればどれだけメリットが得られるのかを算出するサービスである。
外側に蓄積されるデータの価値
ユーザーのデータはより利便性の高いところに集まる。オンライン家計簿サービスのアカウントアグリゲーション機能は、銀行口座、証券口座、カードの利用明細、ポイントなど、一回登録すればオンラインで取得できるあらゆる情報を自動で収集してくれる。そして、モゲチェックが提供する住宅ローンの借換診断診断サービスは、個人の保有する負債に関する情報を蓄積してゆく。
つまり、個人の金融データは金融機関の外へ出て、よりユーザーに近いところへ蓄積され、そこで個人のバランスシートが完成しようとしている。金融機関はこうしたFintechベンチャーと協業を推し進めて利用者視点の金融サービスを実現するのか、あるいはFintech企業が利用者視点のサービスを拡張し、金融商品の提供まで踏み込むのか。
今はどちらのシナリオもあり得るだろう。重要なのは、Fintechなる言葉が生まれた背景には、利用者目線のサービスが求められているという事実があることだ。ただし、その提供主体が、ベンチャーであるか、金融機関であるかが問われているわけではない。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。