三国大洋のスクラップブック

Apple PayとiTunesの相似--アップルの「得意な型」を考える

三国大洋

2014-09-12 07:00

 困っている人に問題解決の手段を提供することで代償(代金)を得る。

 Appleが発表した「Apple Pay」についてさっそくさまざまな記事が書かれていたが、それらを読んでいて改めて“商売の基本”と言えそうなことを考えさせられた。今回はそのことを少し書いてみる。

[Apple Pay Is a Game Changer: Piper Jaffray's Gene Munster - Bloomberg West]

 「AppleはApple Payを使って、実際にはあまり大したことのない問題を解決しようとしている」という見出しの記事がNYTimesに出ていた。Neil Irwinという書き手は初めて目にする名前(テクノロジ系でよく見聞きするメディア関係者ではない)だが、へそ曲がりのインテリ向けに書かれた(あるいはそういう書き手が書いた)いかにもNYTimesらしい内容の話だ。

 ついでに言うと、世間が大騒ぎして持ち上げているような話題だと必ず出てくる「釣りっぽい」記事――devil's advocateというのか、世間の多数派とは異なる見方を書いて関心を惹こうとするタイプの記事と思える。コメントが300件以上も付いているので、書き手の狙いは見事に的中したようにも見える。

 Irwinがツッコミを入れているApple Payの弱み――あるいは、Appleが売り込もうとしているその特徴は2つ。ひとつはクレジットカードを使った支払いに関わる安全性(セキュリティ)の問題で、もうひとつは「使い勝手」、つまりバッグから財布を探し出し、カードを抜き出して、さらに身分証明までみせなくてはならない、という面倒な一連の手続きに関するものだ。

 前者の「問題」については、ICチップ入りのカードが米国でもようやく普及し始めたので、解決は時間の問題だろうとIrwinは書き、後者の点についても「バッグから探し出さなければならないのは財布もiPhoneも一緒」「少額決済ならサインも入らないから、簡単さはカードもApple Payと変わらない」「職場の若い者に『コーヒー買ってきて』と使い走りを頼もうとしても、Apple Payだと指紋認証(Touch IDを使ったもの)をしなくてはいけないから無理(カードなら持たせるだけで済むのに)」などと、それこそ揚げ足取りのようなことを列挙している。

 反対に、iPhone+Apple Payなら「片手で済んでしまう」という点、つまり例えば、いつも入れているジーンズのポケットからiPhoneを取り出し、アプリを開き、Touch IDのセンターに指を当てるだけ…といった一連の動作については触れていない。この辺りのユースケースはそれこそ人によりけりで、千差万別だろうから議論しても意味はないが、プラス面にも触れないというのはどうしても不公平という印象を与えてしまう(自説の主張にあたっての)やり方だろう。

 それはさておき。

 Irwinのこの主張に関する最大の難点は、問題を抱えている当事者を書き手が読み違えていることだ。意図的かどうかは判らないが、Irwinは「Apple PayでiPhoneユーザーの問題が解決される」という前提で議論を展開している。

 けれども、Appleが解決しようとしている本当の問題の当事者は企業側――カードの発行会社(銀行などの各金融機関)やカード決済事業者(VisaやMasterCard、American Expressなど)、それに敢えて付け加えるとすれば、カード支払いを受け付ける小売事業者などである。少なくともお金の流れからすれば、そういうことになる。

 昨年暮れのTarget、今ちょうど騒ぎになっているHome Depotでの顧客情報流出にもIrwinは触れているので、この「企業側が当事者」という点にも薄々気付いているのかもしれない。

 それでも「顧客情報流出で生じた不正使用(詐欺)の被害は、カード発行会社や場合によっては小売業者側に回されるから、消費者にとっては問題ではない」と書くだけで済ましてしまっているから、なんとなくずるい印象がしてしまう。ずるいというのは、その点を議論していくと、結局自説の前提が崩れることがわかり、それで追求を回避したと思えるからだ。

 いずれにしても、Appleは、早く旧式のカード決済インフラ――磁気テープのついたカード(プラスティック)と、それを読み取る無防備なPOSレジ端末をなくしてしまいたい、安全性の高い新しいインフラを早く普及させたいカード発行会社や決済事業者に力を貸すことで、彼らの方から分け前を分捕ろうとしている。

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