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デジタル化のインパクトを日本企業に伝えたい--就任1年のSAPジャパン福田社長

怒賀新也 (編集部)

2015-10-08 07:30

 2014年7月にSAPジャパンの社長に福田譲氏が就任して1年が過ぎた。8月5日の記者会見では、北米で既にクラウドビジネスがオンプレミスを抜いたこと、インメモリデータベース「SAP HANA」を軸に統合基幹業務パッケージ(ERP)を改めて強化することを明らかにした。

 主力のERP事業や買収したSuccess Factorsなどを含めたクラウドへの注力、Aribaを中心にしたビジネスネットワーク事業、さらにIoTを基盤にしたデジタルエコノミーへの対応など、さまざまな方針を打ち出すSAPの日本における戦略について、福田氏に話を聞いた。

――米国ではクラウドビジネスがオンプレミスを既に抜いたとのこと。日本ではまだ1対6でオンプレミスの売上高が大きいという状況ですが、これにはどんな理由がありますか。


SAPジャパンの社長に就任して1年が過ぎた

 欧米ではERP導入がほぼ終了しているのに対して、日本企業のERP導入率は25~30%と見ています。社内でのIT提供基盤を整備するために、ERPにはまだ需要があります。東京電力が営業系のシステムにSAPのCRM基盤を導入しましたが、これは過去最大規模です。

 また、日本企業が中東やアフリカといった海外市場を目指す時、ゼロからシステムを構築するわけにはいかず、自ずとIT戦略への考え方が変わり始めます。作り込んだシステムを使い続けるよりも、パッケージシステムを導入する誘因が働くのです。

――HANAが情報系だけでなく、オンライントランザクション処理(OLTP)にも対応したことで、基幹系システムの基盤として活用されるようになりました。さらに、HANAをベースに情報系と基幹系の境界線のないシステムとして「Business Suite 4 SAP HANA(SAP S/4HANA)」を投入したというタイミングだと思います。ただ、基幹系システムは長い期間掛けて構築した「既存資産」になっていることも多く、それを新たなシステムに移行させるだけの明確な理由がないと、ユーザー企業は動き出さないのではないかといった指摘があります。

 よく聞く話ではありますが、実際はそうではありません。ERP導入は山登りと似たところがあって、初めての人はいろいろな物を持って山に入るのですが、実際に行ってみると不要なものが見えてきて、回を重ねるごとに荷物が減ります。既存システムから不要な部分を差し引き、整理整頓して「引っ越し」する良い機会ととらえる企業も多いです。SAP Business Suiteと比較して、コーディングの量が7割減っているというのは大きな利点と言えます。逆に、ゼロから作り直す企業も増えています。

 加えて、S/4HANA自体、既存のR/3などと比べて全く別物というわけではありません。移行パスを用意していますし、指摘ほど大がかりな作業ではないんです。ただし、2014年にわれわれは既存のパッケージ製品を2025年まで保証すると発表しています。強引に移行を求めるという状況ではありません。

――ユーザーにとって初期投資の大きい従来型のERPパッケージを売るのと、継続利用が前提になるクラウドサービスを売るのとでは、スキル面など必要とする人材像が異なってくるとも考えられます。SAPジャパンとして、今後どのような人材を採用していきたいと考えますか。

 オンプレミスとクラウドという意味ではあまり人材像は変わりません。住宅の販売と通じるものがあり、それを買い手が一括で支払うのか、ローンなのかの違いがあっても、売るもの自体は変わらないのです。

 ただ、デジタル化の進展を踏まえると、新しい視点を持つ人が必要になってきます。Google Mapをよく使いますが、使うほどGoogleは私に関する情報を蓄積していきます。そこで、HANAのようなプラットフォームがそれを解析することで、新たなビジネスを作ることが可能になるのです。何かに追随するのではなく、リスクを取りながら、正解のないことを考える力が求められるわけです。

 具体的には、HANAの医療機関の事例として、入院患者のベッドの下に薄いシートを敷いて、患者のベッドからの落下を防ぐという仕組みがあります。シートにつけたセンサと過去のデータを分析することで、落下の可能性を割り出し、看護士にアラートを飛ばすわけです。

――いわゆるInteronet of Things(IoT)による新たな事業機会の創造という視点で、さまざまな例を耳にします。ただし、現状はあまり収益にはつながっていないとも聞きます。IoTの収益面について、今後どのようになると考えますか?

 IoTの取り組みも企業によってさまざまです。(トラクターの動きを示すデータを分析し事業に活用している)コマツなどは、十分に収益化している例ですが、まだま研究段階の企業も多いです。

 SAPとしては、IoTで得られるデータとバックエンドの基幹システムで持つデータが一体化していないことが問題と考えています。小売業者がセンサでいち早く顧客のニーズをつかんでも、その注文にひもづける在庫情報が間違っていたら話になりません。ERP、IoT、情報系システムなどあらゆるデータを統合的に運用できる点で、S/4HANAに価値があると考えています。

――今後1年の目標を教えてください。

 ある調査で、欧米のCEOの7、8割が「デジタル化で大きな変化が起きる」と回答しているのに対して、日本ではそれが2割程度にとどまっています。日本の経営者にデジタル化の流れを伝えていくのが目標です。

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