今起きつつあるICTの変化とまとめ
最後に、第2回で述べた「2030年の未来像」につながる基礎的な変化とビジョンについて解説し、本白書の特集全体のゴールに当たる2030年に向けての展望をまとめる。
現在起きつつあるICTの変化は、従来型のデータ伝送速度、CPU、ストレージの増大にとどまらない。IoT端末が飛躍的に社会に浸透し、それを分析するディープラーニングなどの人工知能を活用した技術が発展し、質的な面でICTが社会を変える原動力に変化したことを意味する。これを基に、総務省は「社会全体のICT化」によってさまざまな社会課題が解決されるという未来像を提唱している。これらのデータの取得・利活用の基盤に加えて、ますます重要になるセキュリティ分野などを重点研究開発分野としている。
世界最先端の「社会全体のICT化」の推進 出典:「平成27年版情報通信白書」(総務省)
ソーシャルICT革命推進に向けた重点研究開発分野 出典:「平成27年版情報通信白書」(総務省)
以上で「情報通信白書」平成27年版の特集「ICTの過去・現在・未来」を概観した。基本的には、通信自由化以来ICTは役割を変えながら社会により関わる形へと変化してきたと言える。一方で、社会自体が抱える課題も多様化しながら増加しており、その手段としてICTはますます重要になりつつある。一方で、例えばテレワークのような大きなポテンシャルを持っているにも関わらず、普及が進まない分野や、シェアリングエコノミー、パートナーロボットなどその変化の大きさから当惑をもたらしている分野もある。また、それを支えるICT産業はあらゆるレイヤーでグローバル化の波にさらされており、現状だけを見ると困難や課題が非常に多いと言えるだろう。
「2030年の未来像」に示されたようなビジョンはただ実現されるというものではなく、これらの多くの問題を乗り越えた上で初めて実現できるとも考えられる。社会課題を解決するためには画期的な解決策を提示し、なおかつ普及させる必要がある。
そのような解決策は社会に導入された段階からさまざまな交渉や競争の中で生き残らないと普及には至らない。それをどう支援し、社会課題を解決に導いていくかということが、今後の企業や政策の課題であると思われる。このような難題を考える上で、今回のような長期的な視野の特集は有用だろう。
- 田島逸郎
- いくつかのスタートアップに関与しながら、スマートフォン情勢に関心を持ち、個人的に調査、記事の執筆などを行っていた。現在は地理空間情報系のスタートアップで、主にGISやオープンデータなどに携わる。