税理士の利用システムで決まる中小企業の負担
では、中小企業が税理士にマイナンバーの取り扱いを委託する場合、収集や利用、提出、保管、廃棄などのマイナンバーの取り扱いのすべてのプロセスを委託することになるのでしょうか。従業員などからマイナンバーを収集する際の本人確認作業を考慮すると、収集から税理士に委託することは現実的ではありません。
税理士側にしても年末調整を受託している中小企業数×(従業員+扶養親族)のマイナンバーを収集することは、大変な負荷を負うことになりますので、ここは現実的な役割分担としてマイナンバーの収集および本人確認は中小企業が担い、マイナンバーの利用以降のプロセスを税理士に委託することが現実的な役割分担となります。
では、どの時点で収集したマイナンバーを電子データ化、つまりマイナンバー管理システムに入力、登録するのか、これが次に検討すべき課題となります。そして、これは税理士事務所がどのようなシステムでマイナンバーを管理するのかによって異なってきますし、それによってマイナンバーの収集方法やこれに関わる中小企業の負担も変わってきます。
税理士事務所内でマイナンバーを管理するシステムの場合
税理士事務所が事務所に導入しているサーバやPCなどでマイナンバーを管理する場合、税理士事務所がマイナンバーを入力・登録することが基本となるため、中小企業で収集したマイナンバーを税理士事務所に受け渡すプロセスが必要になります。
中小企業が紙でマイナンバーを収集、本人確認を行い、税理士事務所に収集したマイナンバーを紙で渡すことになると、受け渡し時などマイナンバーの紛失、漏えいに備えた安全管理措置を講じる必要があります。
紙で収集する方法では、年末調整時に毎年従業員が提出する扶養控除等申告書にマイナンバーを記載することが方法の1つとして考えられています。
この扶養控除等申告書は、今年中に平成28年分を提出する場合はマイナンバーを記載する必要はありませんが、平成28年1月以降はマイナンバーの記載が法令上義務づけられるため、中小企業に保管義務のあるこの書類にマイナンバーを記載して集めることが自然なこととして考えられたからです。
ところが、10月28日に公表された国税庁の「源泉所得税関係に関するFAQ」のQ1-9では、中小企業など給与支払者のマイナンバーに対する安全管理措置への対応の負担を軽減するための措置として、2016年1月以降提出する扶養控除等申告書でもマイナンバーを記載しなくても良い方法が提示されました。
もともと中小企業に保管義務のある扶養控除等申告書に2016年1月以降もマイナンバーを記載せずにすむのであれば、中小企業のマイナンバー対応の負荷を軽減するためにも、扶養控除等申告書にマイナンバーを記載してマイナンバーを収集する方法はできれば避けたいものです。
では、扶養控除等申告書以外でマイナンバーを収集する方法として、税理士事務所内でマイナンバーを管理するシステムを提供するベンダーはどのような方法を提案しているのでしょうか。
マイナンバー記入用紙を別途用意して、それでマイナンバーを収集し税理士事務所に渡す方法、Excelシートにマイナンバーを入力し電子データで税理士事務所に渡す方法などが提案されています。紙であれ、電子データであれ従業員から中小企業、中小企業から税理士へ受け渡される場面では、紛失や漏えいなどのリスクがあり、それに備えた安全管理措置を中小企業でも税理士事務所でも講じなければなりません。
そして、税理士事務所内のシステムにマイナンバーが登録・保管されることになるため、税理士はこのシステムに対する安全管理措置を講じなければなりません。物理的安全管理措置としてシステムを守る措置や、技術的安全管理措置として担当者・責任者以外はマイナンバーへアクセスできないようにする制御など、マイナンバーを「守る」ための措置を講じる必要があります。
また、マイナンバーの取り扱いを委託する中小企業は、委託して税理士にマイナンバーの取り扱いを任せてしまえばそれで終わりというわけにはいきません。従業員などのマイナンバーに対する一義的な責任は中小企業にありますので、委託先を監督する責務があります。中小企業は、実際のマイナンバー取り扱いの運用において、税理士事務所が十分な安全管理措置をとっているか事前に確認しておく必要がありますし、委託したのちも継続的に確認していく必要があります。