国内の中堅中小企業のIT活用はどんな状況なのか。最新の調査結果をみると、まだまだ課題があるようだ。どうすれば、もっと活用が進むのか。
中堅中小企業がIT投資額を減らす理由
調査会社のノークリサーチが1月12日、中堅中小企業のIT投資状況について興味深い調査結果を発表した。「2016年 中堅・中小企業のIT活用における注目ポイントと展望(業務システム編)」と題したレポートの中で、卸売・小売・サービス業の中堅中小企業(年商500億円未満)のうち、「2015年10月以降のIT投資額が前四半期と比べて減少する」と回答した企業にその理由を聞いたところ、図1のような結果になったという。
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(図1)
回答が最も多かった「売り上げが低迷し、IT投資費用を捻出できない」との理由はまさに本音だろうが、一方で「製造設備や店舗などIT以外の投資を優先したい」との回答の割合も低かったことから、同社では「売り上げや景気への懸念からITを含む投資全般に慎重になっている状況がうかがえる」と分析している。
確かに中堅中小企業にとっては、IT投資を行いたいという思いはあっても、資金的に余力がなければ慎重にならざるを得ない。したがって回答で2番目に挙がった「景気が本当に回復するかをもう少し見極めたい」という消極的な姿勢に陥りがちだ。ただ、IT活用はもはや業務の効率化だけでなく、企業の競争力そのものを左右することをしっかりと認識する必要がある。
そんな中堅中小企業のIT活用において強い味方になり得るのが、初期投資を抑えることができるクラウドサービスである。とりわけアプリケーションレベルのSaaSは、企業規模にかかわらず適用しやすい。最近ではさまざまな領域において良質で手頃な料金のサービスが出そろってきており、検討の価値は十分にある。
経営者に不可欠なIT活用の信念と情熱
では、中堅中小企業におけるクラウド活用の現状はどうなっているのか。ノークリサーチが前述したレポートとは別に先ごろ発表した「2015年 中堅・中小企業におけるクラウドへの移行と障壁に関する調査報告」と題したレポートによると、現時点で最もクラウドで利用されている「情報共有」(メール、グループウェア、オンラインストレージサービスなど)の領域において、年商5億円以上50億円未満の中小企業のクラウド活用状況は図2のようになっている。
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(図2)
この図ではアプリケーションの移行形態なども記されているが、筆者が注目したのは「クラウド移行の予定なし」が26.7%、「全く導入していない」が37.3%、すなわち合わせて64%の企業が未開拓の市場であるということだ。
さらにこのレポートでは、規模の小さな企業にとって「クラウド移行を主導する社内人材不足」が最大の障壁になっていることも指摘している。この点は以前からIT活用そのものに対して言われてきたことでもある。
こうした調査結果を踏まえて、筆者がこれまで取材してきた中で強く感じているのは、規模の小さな企業でクラウドを含めてITをうまく活用しているのは経営者自身がそれを強力に押し進めているケースが大半ということだ。中堅規模になれば、IT活用をオペレーションする体制も必要になるが、その体制作りと陣頭指揮を執るのも経営者の仕事である。
その際、経営者に不可欠なのは、「ITを活用して業務を効率化するだけでなく、ビジネスを拡大し、企業競争力の強化を図る」という確固たる信念と情熱だ。そのうえで投資も当然ながら自らの責任で意思決定を行う。もはや「うちでもクラウドサービスをうまく使えないのか」と部下に命じるだけの経営者では通用しない。中堅中小企業のIT活用は経営者次第だ。クラウドをもっと生かして突き進んでもらいたい。