IT白書とはどのようなものか
それでは、IT白書とはどのようなものでしょうか。現時点においてIT白書を作成している企業は少なく、定番の進め方や定型の書式が確立しているわけではありません。作成のタイミングは年度の節目に沿って1年に1回というのが一般的と考えられます。
内容の中心となるのは活動報告部分となるでしょう。ここでは、主要なIT投資案件と各種IT施策の実施状況やその成果、提供しているITサービスやIT部門運営に関する実績などについて総括し、報告します。具体的なシステムの運用実績や各種調査結果などの詳細な情報やデータは、資料編として別掲載することで、本編を読みやすくすることができます。
モバイルやセキュリティなど自社にとって重要と思われるIT技術の動向や、同業他社のIT活用に関する事例など、経営者やユーザー部門に知っておいてもらいたい事項を啓発の意味で掲載することも有効です。また、忙しい経営者向けに、全体を簡潔にまとめたエグゼクティブサマリを作成することも有効です。
IT白書を作成すること自体は、言うまでもなく目的ではありません。経営者やユーザー部門などのステークホルダーとのコミュニケーションの手段の1つです。したがって、IT白書を作成してIT部門の書棚に並べているだけでは意味がありません。
しかし、IT白書を作成するという活動が、IT部門の自己評価を促し、改善や成熟度向上の礎となることは間違いないでしょう。冒頭で述べた国内企業のIT部門に不足する2つの機能を同時に強化する最善策の1つといえるのではないでしょうか。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。