IT業界では今、国内のシステムインテグレーション(SI)需要が好調に推移している中で、技術者不足が一層深刻化している。しかもこの問題が、新しい技術への取り組みの足かせになるのではないかとの見方もある。果たして対処できるのか。
SIの現場から日々高まる人手不足の声
「好調なSI需要や新しいIT活用領域に向けてしっかりと技術者を投入していくために、当社では国内だけでなくグローバルに人材リソースを有効活用できる仕組みを構築している」(富士通の田中達也代表取締役社長)
「さまざまなプロジェクトに対して技術者を的確に送り込むため、NEC本体だけでなく国内のグループ会社を再編して人材リソースを柔軟に活用できるようにしている」(NECの川島勇取締役執行役員常務兼CFO)
両氏の発言は、富士通およびNECが先ごろ開いた2015年度第3四半期決算会見で、技術者不足への対処策を聞いた筆者の質問に答えたものである。
金融や公共分野をはじめとして国内のSI需要が好調に推移している中で、システムエンジニア(SE)などの技術者不足がますます深刻化している。田中氏と川島氏はそれぞれに対処していることを強調したが、SIの現場からは人手不足を訴える声が日々高まっている。
しかもこの好調なSI需要は2020年頃まで続くと見られており、技術者不足への抜本的な対処策が急務となってきている。
さらにこの問題は、ビッグデータ分析やサイバーセキュリティといった新しい技術への取り組みの足かせになるのではないかとの見方もある。SI需要の多くが業務システムの再構築で、新しい技術とは無縁のケースが少なくないからだ。これがひいては技術者の「質」に影響してくると見る向きもある。
IT企業の間でも生まれかねない“デジタル格差”
実際、IT人材の「量」と「質」の不足感はどんな状況なのか。2010年から2014年までの実態を示したのが下の図である。
IT人材の「量」と「質」の不足感(出典:独立行政法人情報処理推進機構の「IT人材白書2015」をもとに日本オラクルが作成)
この図は、独立行政法人情報処理推進機構の「IT人材白書2015」をもとに、日本オラクルの杉原博茂取締役代表執行役社長兼最高経営責任者(CEO)が、同社が2月2日に開いた教育機関向けIT人材育成支援プログラム「Oracle Academy」刷新の発表会見で紹介したものだ。一目瞭然、量においても質においても圧倒的に不足していることが浮き彫りになっている。
杉原氏はこの図を示しながら、「量および質ともに不足感がおよそ9割に達しているという状況には相当の危機感を持つべきだ。旺盛なSI需要への対処に追われて新しい技術への取り組みを怠ると、今後IT企業の間でも大きな“デジタル格差”が生まれかねない」と警鐘を鳴らした。
筆者も全く同感だ。旺盛なSI需要が今後数年続くことはIT業界にとって追い風だが、今まさしく進行しつつある技術革新に向けてIT人材をどう育成していくか。今のままでは、目の前のSI需要に追われて疲弊した技術者が2020年以降、大量に切り捨てられる事態になりかねない。
こうした懸念を払拭するためにも、IT企業のトップマネジメントにはぜひとも知恵を絞ってもらいたい。もっと言えば、この問題は個々のIT企業レベルにとどまらず、IT業界、さらには産官学を挙げて構造改革に取り組むべき話かもしれない。どうすべきか。筆者も強い問題意識を持って取材を続けたい。