編集部より:u-bloxは1997年にスイスで設立された、無線のほかにGPSなどの測位用製品を提供するグローバル企業。無線や測位システムにフォーカスしている唯一の企業としており、ICやモジュールとして全世界に製品を提供している。同社幹部に、現在注目を集める“コネクテッドカー”を巡る論点を寄稿してもらった。
モノのインターネット(Internet of Things:IoT)の波は自動車産業の分野にも押し寄せている。
自動車産業でのIoTの活用は当初、インフォテインメント分野でスタートしたが、今では、乗り心地や安全性を強化し、自動運転の開発を加速する新しい“V2X”アーキテクチャにおける「センサの統合」「測位」「セルラー通信」「近距離無線通信」などの分野へと進化してきている。
V2Xとは「Vehicle to Everything」の略称であり、車載通信を一体化させたもののことである。現在のV2Xは“車車間通信(Vehicle to Vehicle:V2V)”と“路車間通信(Vehicle to Infrastructure:V2I)”で構成される。つまりV2Vは車両同士、V2Iは路側機と車両がコミュニケーションを取ることで、安全運転を支援するものを含め、さまざまな情報サービスを得ることができるものだ。
基本レベルのV2Xでは、複数の自動車間で重要な情報をやり取りできるだけでなく、必要性が増加している緊急通報(eCall)サービスを実現するために、交差点での事故を防ぎ位置情報を送信するようなインフラストラクチャを提供できる。
しかし、V2Xが業界から大きな注目を浴びている理由はそれだけではない。
自動車が自分自身の状態を認識するだけでなく、他の車両の状態や環境、天候、道路状況、交通状況をはじめ、ドライバーの安全や走行の効率性に影響するその他の多様なパラメータも認識する、新しい時代の自動車の先駆けとなる可能性をV2Xが備えているからだ。
このような自動車による認知では、センサによる検出、通信、意思決定が“機械間通信(Machine to Machine:M2M)”のレベルで実施されるため、エンターテインメントや既存のIoTを超えた「本当に重要なIoT」の世界へと移行することが可能になる。このような世界では、単一のクリティカルなセンサ測位要素からリモート分析、そして最終応答へと至る経路で誤りが発生した場合、ドライバーに影響するだけでなく、OEMメーカーにも影響が及ぶ可能性がある。
当然ながら、このことはV2Xへの移行についても当てはまる。信頼できる遅延の少ない通信を実現するために適切な方法を採用すること、また、実証済みの設計手法と信頼できるコンポーネントやモジュールを取り込むことで自動車による認知機能は、安全で信頼性の高い真の自動運転を実現するという目標への道を開くことが可能となる。
そのような道を開く途中で、より緊密に統合された先進運転支援システム(ADAS)を通じてドライバーの安全を強化し、事故回避を実現すること、運行管理のような商用面での収益を強化することも可能となるだろう。
インフォテインメントは出発点に過ぎない
純粋なテクノロジ的な観点からは、インフォテインメントを目的とする自動車へのインターネット接続機能の追加は、家庭から自家用車へとモバイルデバイスを移動するという自然な流れである。自動車メーカーは、消費者が自宅、モバイル、自動車での娯楽的要素の緊密な統合を望んでいることを認識している。
米ニュースサイトBusiness Insiderのリサーチ部門であるBI Intelligenceによる1月の調査結果によると、2020年には、世界中で出荷される約9200万台の自動車のうちの75%に、インターネットに接続できるハードウェアが搭載されることになり、2015~2020年の5年間の年平均成長率(CAGR)は45%になると予測されている。
同調査は、次のようにも言及している。アプリケーションには、音楽や映像のストリーミングからウェブ検索、交通状況や気象状況に関するアラートの受信まで幅広い種類があるが、このような多種多様なアプリケーションを搭載することでコネクテッドカーの平均販売価格は、高級車級の5万5000ドルにまで押し上げられることが予想され、ただし、その価格は急激に下落することも予想されている。
興味深いことに、BI Intelligenceでは、2020年にはコネクテッドカーが世界中で2億2200万台になるにもかかわらず、所有者によりサービスに接続される台数はわずか8800万台にすぎないであろうと予測している。つまり、BI Intelligenceは、組込型の接続が好まれるであろうと予測しているのだ。