EMCの買収、ITサービス事業のNTTデータへの売却を発表し、このところダイナミックな動きを見せるデル。そこには同社ならではの「プロダクトベンダー」に徹する事業戦略があるようだ。
デルならではのAzure搭載システムの投入
デルが4月5日、マイクロソフトのパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」の機能をオンプレミスに設置するプライベートクラウド環境でも利用できる統合型システム「Dell Hybrid Cloud System for Microsoft」を国内で提供開始すると発表した。
両社のグローバルな戦略的提携に基づくもので、今回の新製品は米国で2015年10月に開催された「Dell World」において、両米国本社のトップが登壇して発表された。製品の内容については関連記事を参照いただくとして、マイクロソフトのクラウドサービスの機能をデルが統合型システムという「プロダクト」に搭載して提供するというソリューション形態がミソである。
デルといえば、2015年10月にEMCの買収、この3月にはITサービス事業のNTTデータへの売却を発表するなど、このところダイナミックな動きが目立つ。その背景には、EMCの買収に必要な費用をITサービス事業の売却益で賄うという資金繰りの側面もあるようだが、筆者は同社が「プロダクトベンダー」に徹する事業戦略を一層鮮明に打ち出してきている印象を強く受ける。
現在、企業向け事業を推進する大手ITベンダーのほとんどは、クラウド化のためのプロダクトを提供するとともに、自らクラウドサービスも展開している。だが、デルはこれまで自らクラウドサービスを本格的に手掛けていない。デルが買収に乗り出したEMCも、グループ会社のVMwareが自社環境をベースとしたクラウドサービスを展開しているが、EMC本体では手掛けていない。
つまり、デルの戦略はプロダクトベンダーとして、クラウドサービスベンダーやプライベートクラウドを構築するユーザー企業に向けて幅広く事業を展開することにあると見て取れる。ITサービス事業の売却は、その方向性を鮮明に打ち出した動きにほかならない。
「クラウドサービスベンダーとは競合しない」と断言
さらに言えば、今回のAzure搭載システムの投入も、プロダクトベンダーに徹したデルならではの事業展開といえる。そう感じたので、今回の発表会見の質疑応答で、デルの町田栄作 執行役員エンタープライズ・ソリューションズ統括本部長に、「デルは今後もクラウドサービスベンダーと競合するビジネスに乗り出すことはないのか」と聞いてみた。すると同氏は次のように断言した。
「デルは、当社のプロダクトを購入していただくお客様と競合するビジネスは基本的にやらない。その戦略は今後も変わらない」
ベンダーが自らクラウドサービスを手掛けるかどうかは、今後のIT産業構造がどのようなスピードでどう変わっていくかをにらみ、その中で自らの強みをどう発揮できるかを見極める必要がある。その意味では、自らはクラウドサービスを手掛けず、クラウド化のためのプロダクトを提供することに徹して事業を展開する巨大ベンダーが存在してもいいのではないかという気もする。
ただ、クラウドサービスベンダー大手のAmazon Web Services(AWS)やGoogleはサーバなどの「プロダクト」も自社開発しており、この動きが広がればデルにとっては“逆風”になる。また、前述したVMwareが手掛けるクラウドサービスをどう扱っていくのかも気になるところだ。果たして、プロダクトベンダーに徹したデルの事業戦略が奏効するか。その行方に注目しておきたい。

新製品の統合型システムとともに並んだ会見登壇者。左から、デルの町田栄作 執行役員エンタープライズ・ソリューションズ統括本部長、日本マイクロソフトの佐藤久 業務執行役員クラウド&エンタープライズビジネス本部長、日本ビジネスシステムズの牧田幸弘 代表取締役社長、デルの松本光吉 執行役員副社長パートナー事業本部長