クラウド分野において、SaaSベンダーがこれまで利用してきたIaaSを乗り換える動きが目立つようになってきた。果たしてSaaSベンダーの思惑とは何か。
IBMのIaaSを財務・人事管理SaaSのWorkdayが採用
米IBMと財務・人事管理のSaaSを提供する米Workdayが先ごろ、戦略的提携を結び、その一環としてWorkdayがIBMのIaaSを採用したと発表した。WorkdayはこれまでIaaSとして米Amazon Web Services(AWS)のサービスを利用してきたが、開発・テスト環境の基盤についてはIBMのIaaSに乗り換えた形となる。
これにより、Workdayはアプリケーションおよびサービスのイノベーションを加速し続けるとともに、IBMのSaaSはWorkdayの開発・テスト環境の要件増加に対応する際に重要となるキャパシティの拡張性をもたらすとしている。
WorkdayのAneel Bhusri共同創設者兼最高経営責任者(CEO)は、「当社のSaaSはIBMのIaaSを活用して、現在進めているグローバル展開を一層推進するため、社内での開発・テストを加速させていく」と述べている。
さらに、WorkdayではIBMのIaaSを開発・テストだけでなく、長期にわたって幅広い用途に利用していく意向を示している。これは、次の段階では財務・人事管理もIBMのIaaSへ移行するものとも受け取れる。
一方、IBMでは今回の戦略的提携により、WorkdayのSaaS向けコンサルティングサービスをグローバルに展開するとともに、Workdayの人事管理を社内に適用していくとしている。これはWorkdayにとって、非常に強力なパートナーでありユーザーを獲得したことになる。
IaaSベンダーからビジネス面でも協力を得たいSaaSベンダー
このように、SaaSベンダーがこれまで利用してきたIaaSを乗り換える動きが目立つようになってきた。その象徴的な動きとして先ごろ話題になったのは、米Salesforce.comが主要SaaSのインフラにAWSのIaaSを採用したことである。ただ、このケースは自前のインフラから乗り換えた形だ。Salesforce.comとしてはクラウドサービス事業全体の急速な拡大に伴い、インフラを自前で運用し続けるより、信頼できる外部のIaaSを利用したほうが得策と判断したようだ。
Workdayと同様の新興ベンダーがIaaSを乗り換えた国内の事例として本コラムでも取り上げたのは、ウェブ会議などのビジュアルコミュニケーションサービスを展開するブイキューブや、モバイルデバイス管理(MDM)サービスを展開するアイキューブドシステムズのケースだ。いずれもAWSからMicrosoft Azureに乗り換えた形だが、これを機に両社はそれぞれ日本マイクロソフトと戦略的提携を結び、お互いのサービスの連携などを図っている。
さて、こうした動きから何が見えてくるか。まずIaaSベンダーにとっては、有力なSaaSの“奪い合い”がますます過熱してくるだろう。その際、IaaSを乗り換えるSaaSベンダーの思惑とは何か。それはIaaSのコストパフォーマンスや品質、グローバルでのサービス展開力もさることながら、とりわけ新興ベンダーにとってはIaaSベンダーと戦略的提携を結び、ビジネス面での協力を得られるかどうかがポイントになるのではないだろうか。
そう考えると、IBMとWorkdayの戦略的提携は、Workdayにとってこの上ないことだろう。なぜならば、サービスそのものがIBMと競合しないことから、IBMが自社のSaaSと同様に担ぐ可能性さえあるからだ。もっともWorkdayからすると、あまりIBM色が強くなりすぎると、ビジネスとしてはやりにくい面も出てくるだろうが…。いずれにしても、今後はさらにIaaSベンダーとSaaSベンダーが、戦略的提携を行うケースが増えてくるのではないか。そこにまた新たなビジネスチャンスも生まれそうだ。