「DellのEMC買収手続きが完了」「Hewlett Packard Enterpise(HPE)が一部のソフトウェア事業を分離」―― 先週、この2つのニュースが世界を駆け巡った。今後、IT分野の主戦場となるクラウド事業の観点からすると、Dell EMCとHPEには共通の戦略が見て取れる。
クラウド向けのプロダクト提供に徹するDell EMCとHPE
DellによるEMCの買収手続きが米国時間9月7日に完了した。統合後に正式に誕生したDell Technologiesは、売上高740億ドル(約7兆5000億円)、従業員数約14万人で、クライアントからインフラ、クラウド向けにわたる幅広い事業領域をカバーする巨大ベンダーとなった(関連記事1、関連記事2)。
一方、同じ9月7日、HPEが「ノンコア」と位置付けるソフトウェア事業を分離すると発表した。英ソフトウェアベンダーのMicro Focusと統合する計画で、HPEが統合新会社の株式50.1%を保有するという。こちらはHPEの2017会計年度(2017年10月期)後半に完了する予定だ(関連記事3)。
Dell Technologiesの最高経営責任者(CEO)Michael Dell氏
Dell EMCとHPEは共にクラウド事業に注力する方針を打ち出しているが、実は、両社ならではの共通点がある。それは「クラウドサービスを手掛けていない」ことだ。
現在、企業向け事業を推進する大手ITベンダーの多くは、クラウド化のためのプロダクトを提供するとともに、自らクラウドサービスも展開している。だが、Dell EMCは統合前の両社ともこれまで自らクラウドサービスを本格的に手掛けていない。
厳密にいえば、これまでのEMCグループから今回Dell Technologiesの下で独立企業として事業運営を行うことになったVMwareやVirtustreamでは、特定領域に向けたクラウドサービスを提供している。だが、Dell EMCとしてはクラウドサービス市場で先行するAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Googleなどと競合するサービスを手掛ける戦略はとらず、むしろ、そうしたサービスプロバイダーやプライベートクラウドを構築するユーザー企業に対して、クラウド技術に優れたプロダクトを幅広く提供することに注力する構えだ。
プロダクトに注力する構えはHPEも同じだ。さらに今回、一部のソフトウェア事業を分離したことで、クラウドのインフラ領域にリソースを一層集中させる姿勢を鮮明にした。
ハイブリッドクラウドを前提とした両社の戦略
つまり、Dell EMCとHPEは共に、自らクラウドサービスを手掛けずクラウド向けのプロダクト提供に徹するという戦略を選んだのである。ただし、対象とする事業領域において、幅広く展開するDell EMCに対し、HPEはインフラに絞り込んでおり、戦術面では異なっている。
両社がクラウド向けのプロダクト提供に徹するのは、ユーザー企業のプライベートクラウド構築ニーズに対応し、AWSやMicrosoft、Googleなどのクラウドサービスと連携を図ったハイブリッドクラウド市場で確固たるシェアを獲得したいという思惑があるからだ。
したがって、今後は両社とも有力なクラウドサービスプロバイダーとのアライアンスを強化していくものとみられる。すでに両社は、かつてのハードウェアベンダーとOSベンダーの関係から、Microsoftとはさまざまな形でハイブリッドクラウドに向けた協業を進めている(関連記事4)。
ただ、Dell EMCとHPEが選択した戦略は、今後のユーザー企業のIT利用はハイブリッドクラウドが主流になるとの読みが前提となっている。したがって、もしクラウドサービスが主流になってくれば、目算が狂う可能性がある。両社のプロダクトはサービスプロバイダー向けでもあるが、ユーザー企業へのビジネスと同様に進展するかどうかは不透明だ。
将来、もしクラウドサービスが主流になっていれば、両社はそれぞれ有力なサービスプロバイダーと統合しているかもしれない。逆にハイブリッドクラウドが主流であり続ければ、とりわけ巨大ベンダーとなったDell EMCは、複数のサービスプロバイダーを傘下に収めている可能性もありそうだ。