「プロジェクトマネジメント」の解き方

研究開発のプロジェクトマネジメント--技術の「組み合わせ」とイノベーション - (page 3)

座間利行(シグマクシス)

2016-10-26 07:00

 また、従来から存在する管理手法であるが、ステージゲート方式を活用して研究開発全体の進捗状況把握と確認ポイントにおける意思決定も行うようになった。

PM

 ここで大事なのは、研究者1人ひとりの個性を把握し、何をやっているのか、何につまずき、何に悩んでいるのかを知り、必要に応じてステークホルダー間の調整をわれわれが担い、各所に散らばる「仮説」の数を少しずつ収束させながら、期限内に技術的なゴールを達成させるという動き方だ。

 報告内容は極力シンプルにし、研究者に負担を掛けないように配慮することで、研究者の能力とモチベーションをフルに発揮してもらう。私たち自身、プロジェクトメンバーとして中に入り込んで、客観的な目線でプロジェクトの収束をサポートする、という日々が続いたわけだが、これらのPMが成功した背景には、研究者を束ねるA社プロジェクトオーナーの強いリーダーシップがあったことは言うまでもない。

 ちなみに、この目標管理のアプローチは、ウェブアプリ開発などで用いられるアジャイル開発のPMにも適用できる。開発する側もあえて請負開発とはせず、ユーザー部門をうまく巻き込み、ベータ版を開発して所定の回数機能確認してもらい、仕様を固めてゆく工数まで含めた支援契約で開発すればよい。ユーザーの満足度を上げ、かつ開発コスト上振れとスケジュールの遅延を起こさない意味で、新しい方法論として確立されつつあると言えよう。

アートや段ボールで、シャイな研究者たちのコラボを促進

 R&DのPMでもう一つ大きなチャレンジだったのが、コラボレーションの促進だ。研究開発プロセスの効率を上げる、あるいはアウトプットの価値を高めるためには、多種多様な研究者のコラボレーションが不可欠だ。特に、グローバルの過酷な開発競争を勝ち抜くために産学協同のコンソーシアムを作っているわけであり、各組織の英知を結集しなければそもそも取組みの意味がない。

 しかし、モチベーションひとつとっても、企業の研究者は新製品開発やコスト削減、品質向上といった、ビジネス価値に貢献する技術や素材の発見に向いているのに対し、大学の研究者は物理現象のメカニズムの解明のような、原理原則の新発見にエネルギーを注ぐ。

 このように企業と大学で研究に対する目的の違いがあるのに加え、そもそも高い専門性を持っている研究者は、シャイでコミュニケーションが苦手という性質を持っている。いかに彼らを1つのベクトルに向かわせ、自らコラボレーションするように促すか、という点に数々の工夫が必要だった。

 1人ひとりの専門性とモチベーションの方向を知り、シナジーが出やすい単位でプロジェクトを組むというアサインメントをする、目標やコンセプトの共有を徹底する、という点にエネルギーを注いだ。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

関連記事

関連キーワード
ウォータフォール方式

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

マイナンバーカードの利用状況を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]