ガートナー ジャパンは2016年10月に「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2016年」に発表。その中で人工知能(AI)は「過度な期待」のピーク期に位置付けられている。
同社にはAIに関連した問い合わせが増えているが、その多くは事例に関するものであり、多くの企業が早期にAIを導入して実績を作りたいと考えていることがうかがえるという。AIを標榜する製品やサービスが相次いで発表され、AIは百花繚乱の状況とも言える。
図1:2016年10月に発表されたハイプサイクル(ガートナー提供)
その一方でAIへの関心が高まるに連れ、社会にはAIについて多くの誤解が見られるようになっているとの見方を同社は明らかにしている。
同社の顧客の間で特に多く見られるAIに関する誤解を挙げ、さらに日本企業のAI戦略について、今後の展望を述べている。特に多く見られる誤解については、下記の10項目を挙げている。
- すごく賢いAIがすでに存在する
- 「IBM Watson」のようなものや機械学習、深層学習を導入すれば、誰でもすぐに“すごいこと”ができる
- AIと呼ばれる単一のテクノロジが存在する
- AIを導入するとすぐに効果が出る
- 「教師なし学習」は教えなくてよいため「教師あり学習」よりも優れている
- 深層学習が最強である
- アルゴリズムをコンピュータ言語のように選べる
- 誰でもがすぐに使えるAIがある
- AIとはソフトウェア技術である
- AIは結局、使い物にならないため意味がない
誤解1:すごく賢いAIがすでに存在する
「すごく賢いAIがすでに存在する」について、ガートナーでは「相当な誇張であり、学術的に見ても誤りであることを理解すべきだ」としている。また、顧客から実際に「AIのマジッククアドラントはあるか」「どのAIが最も優れているか」といった質問が多数寄せられた事実を示し、こうした質問の背景に「すごいAIが存在する」という誤解があるとしている。そしてまず明確にしておくべきこととして「現時点において世の中には本物のAIと呼べるものは存在しない」と明言している。
人工知能の研究者(関連記事)は、現時点で“人間と同様の知能”を実現できているテクノロジは存在しないことを当たり前のこととして認識している。その一方で、現在AIがまさにバズワードとして取り上げられていることから、経営者やテクノロジにそれほど詳しくない人間は、AIによってさも「今、人間と同様のことができる」あるいは「今すぐにすごいことができる」と捉えてしまう傾向が見られる。
ガートナーは、AIについて遠い将来の話と現在の話、数年後の話といったことを明確に分けて捉えるべきであると説明(図2)。「今、すごく賢いAIがすでに存在する」というのは相当な誇張であり、学術的に見ても誤りであることを理解すべきと警告。企業は、SFの話と今の話を明確に分けておくことが重要としている。
図2:人工知能の話を時間軸で分けて捉える(ガートナー提供)
AGI:Artificial General Intelligence(汎用人工知能)
ASI:Artificial Super Intelligence(人工超知能)
GPMI:General Purpose Machine Intelligence(汎用型機械知能)
SPMI:Special Purpose Machine Intelligence(特定型機械知能)
VPA:Virtual Personal Assistance(仮想パーソナルアシスタント)
誤解2:Watsonのようなものや機械学習、深層学習を導入すれば、誰でもすぐに“すごいこと”ができる
2011年2月にWatsonが「Jeopardy!」というクイズ番組に挑戦し、勝利。2016年3月に「AlphaGo」が囲碁の対局でトップ棋士に勝った。こうしたものを導入すると“すぐにすごいことができる”と捉える向きがあるが、そのように単純ではないことを理解する必要があると提言している。
これらは、機械学習や深層学習の応用だが、それらを導入すれば同じようなことがすぐに実現できるわけではなく、こうした“すごいこと”を成し遂げようとするなら、実際の“すごい”テクノロジに加え“すごい”エンジニアが必要となる。
企業は「AIのようなものを導入すれば誰でもすぐにすごいことができる」というのは誤りであることをまずは理解する必要と話している。AIのようなものは、人間に例えれば赤ちゃんか子供であると捉えておくべきであり、うまく育てるためにも育てる人の“スキル”が求められることを忘れてはいけないと注意している。
この1年で「チャットボット」に関する期待が高まっているが、「人工知能を搭載したチャットボット」というフレーズには注意すべきとしている。
現在チャットボットと呼ばれるものは、あらかじめ用意したテキストを条件に応じて返す、といったレベルのものが多く、以前から存在する電話の自動音声案内をチャットベースにしたようなものまでがAIと呼ばれている状況があると説明している。人間が応対しているものが何でもAIでできるといったレベルになるには、少なくとも10年以上かかると理解しておくことが重要としている。