日本マイクロソフトは1月18日、2017年度(2016年7月~2017年6月)上期を振り返りつつ、下期の方向性や注力分野について、記者説明会を品川本社で開催した。同社 代表取締役 社長 平野拓也氏は、「顧客のマインドシェア向上でクラウドビジネスを加速させる」と下期の目標について語っている。
世間ではAI(人工知能)が今後のITビジネスを変える技術の1つとして認知されているが、Microsoftは米国本社に5000人規模のAI関連組織を設立し、顧客の需要に合わせた営業体制を行っている。同社は約25年前に設立したMicrosoft ResearchでAIに関する研究を現在まで続けており、各種製品やサービスにその研究結果を生かしてきた。
日本マイクロソフトの代表取締役 社長 平野拓也氏
平野氏によれば「2016年末にとある調査機関の発表したAI関連の特許数は2位だったGoogleの2倍にあたる1100件を超える」(平野氏)という。同社は言語や音声、視覚など人が認知する部分をコンピューターを通じて実現する「Cognitive Services」を展開中だが、既に認識率は人のそれを超えているため、今後はビジネスソリューションとしての展開が重要視されるが、日本マイクロソフトは「(コグニティブサービスの)品質や応答能力は高い精度に達している。今後は(サービスが)使いやすくなるツールキットをパートナーや顧客に提供していく」(平野氏)と方向性を示した。
さらに「AIがバズワード的に盛り上がっているが、今年はAI元年としてわれわれにも大切な年になる」(平野氏)と語るように、AIビジネスにも多くの注目が集まっている。平野氏が顧客と話をしていると、"AIは費用が高くなる"と認識されているケースが少なくないという。Microsoftは高額な製品やサービスを安価で提供してきた経緯があるため、日本マイクロソフトはAI分野でも同様の取り組みを行い、「誰しもが使えるAI」(平野氏)を目指す。ちょうどMicrosoft CEOのSatya Nadella氏が昨今提唱している「AIの民主化」を念頭に置いた発言だろう。
既に日本マイクロソフトは金融機関や大学などと連携したAIビジネスを進めており、後者はガンの研究に利用。都内居酒屋ではロボティックス技術を利用し、来店客との会話や注文を受け付ける実証実験を2016年後半から開始。現時点では店員のサポートに位置付けされるが、将来的にはAIによるロボティクスが注文から料理運搬、会計までを一気通貫的に対応することになりそうだ。
これらのビジネスソリューションを日本マイクロソフト1社で行うのは現実的ではない。そのため、同社は日本独自の取り組みとして「Japan X-Biz Community」と名付けたビジネスコミュニティを設立する。2016年2月にIoTビジネスの推移目的で設立した「IoTビジネス共創ラボ」を基盤に、小売りや広告、ヘルスケアやHRテックといった分野へのビジネス展開を図る。
詳細は近く発表される予定だが、ビジネス共創ラボは2016年12月の時点で218社の一般企業会員が参加していることから、ビジネスの可能性を広げるための施策となるだろう。
日本独自の取り組みとして「IoTビジネス共創ラボ」を拡大した「Japan X-Biz Community」
ワークスタイル変革は多国籍企業であるMicrosoft全体の取り組みながらも、日本マイクロソフトは突出しているという。もちろん日本政府が示す方向性や、同社が6年前から取り組んできた成果と言えるが、2016年10月に実施した「働き方改革週間2016」では、参加法人数が833社に達した。もちろん同社社内も就労規則を変更し、産前産後での柔軟な働き方を実現するようしてきたが、平野氏はこの分野にもAI技術を投入すると語った。
例えば同じ部署のメンバーが同一の会議に出席した結果を数値化し、一方が別のアクションを起こせるといった改善ポイントがある場合、Office 365の「Microsoft Graph」を通じてビックデータから知り得た知見を「Microsoft MyAnalytics」を通じて提案し、個人の働き方を改善し、最適化する。「コミュニケーションとコラボレーションを変える『気付き』を提案。会社の生産性向上に留まらず、個人のワークスタイルバランスの向上にも貢献できる」(平野氏)という。
既にHRテック分野は2016年9月にリクルートキャリアとの協業を発表しており、現在は社内で知見を構築しつつ、近日中に新たな発表を予定している。