IBMは、部内者による攻撃やランサムウェアの被害が増え、患者の個人情報が危険にさらされている米国の医療業界の現状について、「嵐の海に漂う浸水中の船」と表現するとともに、「情報漏えいのリスク」に懸念を示している。
医療関係のデータは、アンダーグラウンド市場では価値の高い商品であり、医療情報の漏えいは、患者本人だけでなく、医療サービス提供機関の評判にとっても重大な被害を及ぼす可能性がある。
米保健福祉省公民権局の情報漏えいポータルによれば、米国の医療業界では2016年に合計320件の情報漏えいが発生している。これは前年よりも18.5%大きい数字だ。
医療サービス提供機関で起きた情報漏えいの1件当たり被害額は355ドルと推定されているが、これは他業種平均の1件当たり158ドルに比べ2倍以上だ。
IBMは新たに公表したレポートの中で、医療業界はこれまで以上にサイバー攻撃によるリスクに晒されていると述べている。
世界規模で毎月1兆件のセキュリティイベントを監視している同社は、IBM Managed Security Servicesのデータによれば、医療サービス提供機関や、医療業界の関係組織を対象とした攻撃でもっとも多く使用されている攻撃手段は、悪質な情報を送り込むことだとしている(48%)。
フィッシング攻撃や、従業員をだまして悪質なファイルをダウンロード、実行させることで情報を送り込むこの種の攻撃が成功すると(これにはShellShockのようなOSコマンドインジェクションや、SQLインジェクションが含まれる)、システムアプリケーションやその動作が変更されたり、データベースを改ざんされる危険がある。
また攻撃の19%では、システムのデータ構造を操作することで不正アクセスに成功している。3番目に多い攻撃手法はシステムのリソースを対象とするもので(9%)、この種の攻撃がすると、任意のコードが実行されたり、サービスの提供が妨害される可能性がある。
ランサムウェアは現在の医療業界にとって最大の脅威の1つだ。攻撃が成功すると、病院のシステムがロックされて、患者の診療記録や、スケジュール、通信サービスを含む情報へのアクセスを人質に取られ、身代金を要求される。
2016年に公表されたIBM Researchの調査によれば、ランサムウェアの被害を受けた企業の70%が身代金を支払っており、そのうち半数以上が1万ドル以上を支払っている。
2016年には、ランサムウェアにロックされたシステムファイルへのアクセスを取り戻すため、南カリフォルニアの病院が1万7000ドル相当のビットコインで身代金を支払った。
提供:Symantec